その瞬間、アズール・アーシェングロットは閃いた。

 刻はちょうど昼飯時。所用を片付けていたら、大食堂に来たときには席はぎっちり埋まっていて、アズールはせっかくトレーに乗せた完璧な栄養バランスの昼食を食べることができずにいた。
 イライラとした気持ちに従って、アズールは目つき悪! と言われるレベルまで瞳を細め周囲の奴らを睨みつける。

 まったく、まだ食べていない人間が席を求めているのが見えているだろう。食べ終わったなら早くどけろ。モストロ・ラウンジの客もそうだ。追加注文もしないくせに、食べ終わった皿を片付けてもしつこく居座る客のせいで回転率があがらない。

 ポイントカード導入でリピーターは以前よりも増えたものの、2号店への道が少し遠のいた今、売上を上げるには、集客UPと回転率UPが必須である。しかし、今日の大食堂のように、いつまでも居座るバカを追い出すいい案が浮かばない。

 そんな時、アズールは視界の端に見知った面々を発見する。オンボロ寮の一行と、ハーツラビュルの一年生たちである。だいたいの者が食べ終わっており、今はホクホク幸せそうな顔で食事を楽しんでいるフィリアの食べ終わりを待っているようだった。彼女の皿に残っている半分になったパンをいやしんぼのグリムが狙い、ユウに「メッ」と尻尾をギュッとされている。
 グリムは見ておくから、ゆっくり食べろよ、なんて声をかけられている、なんとも仲睦まじく微笑ましい光景である――が、そこでアズールが気づいた。彼らを眺めているのは、アズールだけではなかった。彼らの周囲の席に座っている、学年も寮も様々な生徒ら全員、無関心そうな表情を装いながらも、チラチラと彼らを見たり、気にしたりしていることを。

「ごちそうさまでした!」
「よし、じゃあ行くか」

 エースが声掛けし、一行が立ち上がると、彼らだけではなくその周囲の席の生徒らも立ち上がって、いなくなる。
 いきなり席が選び放題になったアズールはポカンと立ちすくした。そして、すれ違い様に彼らの声を聞いた。

「今日も可愛かったな」
「俺たちは食堂くらいでしか会えないもんな」
「今度はもっと近くの席に座りたいなぁ」
「ああ、今日も声かけられなかった……」
「尊い」

 その瞬間、アズール・アーシェングロットは閃いた。
 集客UPと回転率UPを同時に叶える神の手を。


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