「ここが、おまえの部屋だよ」

 促されて足を踏み入れたとたん、うんざりした。ずいぶん狭く、粗末な部屋だった。埃の積もった緑の床、壁じゅうを蔦のようにパイプが這っている。家具は古ぼけた机と椅子とくもの巣が張った本棚、そしてベッドだけ。照明は薄暗く部屋の隅まで照らしきれない。
 からっぽの部屋……こちらの不満を悟ってか、魔女がくつりと笑いをこぼした。

「こんな部屋でも最低限の生活には困らないだろう? 他に必要なものがあればいつでもお言い。――さぁ、次だ。ついておいで」

 魔女は背をピンと伸ばし、優雅に廊下を歩き始める。カラスは魔女の肩や杖に止まって、ジロジロこちらを観察してきた。
 次に案内されたのは、さっきの部屋の十倍は広いホールだった。天井も高く、光が細く差し込んでくる。

「こいつを見たことがあるかい?」

 マレフィセントの足元に闇が集い、金色の瞳をもった魔物が生まれる。生まれたての野生動物のように地を這いずりまわり、やがて二本足で立ち上がった。しきりに触覚を動かし、周囲の様子を探っている。

「なんだ、これは?」
「ハートレス。心無きもの――闇の世界に巣食う魔物だよ」

 そのとき魔物と目が合った。次の瞬間、そいつは爪をふりあげ襲いかかってくる。とっさに腰にあった木剣で攻撃を防ぎカウンターで殴りつけたが効いていない。衝撃で転げはしたものの、大して痛がる様子もなく起き上がった。キョロキョロ周囲を見回すと、再びこちらへ凶器を向ける。

「おやめ」

 マレフィセントの声が命令すると、魔物がピタッと大人しくなった。爪で傷がついた木剣を構えつつ魔女を睨んだ。

「あんたがこいつを操っているのか」
「そうだよ」

 マレフィセントはハートレスを眺めながらコツコツ靴音を響かせる。

「ハートレスは意思や思考をもたない。こいつらにあるのは、心を求める本能のみ……本能で生きているから、こいつらは自分より強いものに従うのさ。強い闇を操る、この私にね」
「心を求める……闇……?」

 自分は故郷で闇の扉を開いたが――まさか。思わず拳を握りしめた。

「さぁリク。こいつをやろう」

 そう言って、おもむろにコウモリの片翼に似た剣を手渡される。鈍く青光る翼支と血のように赤い羽根の刃、柄の飾りらしい水色の目がギョロリとこちらを見たきがした。不気味な見た目だが、素晴らしい業物だ。

「それはソウルイーター。剣を扱うおまえにぴったりの武器だろう」

 そう言ってマレフィセントが両手を広げた。闇がどんどんあふれ出し、こちらを取り囲むようにハートレスが次々と現れる。イヤな予感に素早く木剣をしまいソウルイーターを構えた。

「なんのつもりだ」
「先ほどの反応はなかなかに素晴らしかった。けど、あれでは足りないね。もっと私におまえの力を見せておくれ」

 その言葉の終わりを待ちわびていたかのように、ハートレスたちが飛びかかってくる。反射的に、前方のものを数匹斬りつけて包囲網を破った。ソウルイーターは想像以上の切れ味で、ハートレスの死骸は一瞬で黒い霧となって消えたので生き物を殺した≠ニいう良心の呵責はない。こいつらは倒すべき魔物なのだ。



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