気がついたら知らない学校の制服を着て棺桶の中。突然、猫か狸かわからない空飛ぶ獣に追いかけまわされた挙句、妙な闇の鏡に「どこにも居場所はない」と告げられて学園長と名乗った男がギャアギャア言っている時だった。先ほどまでぼうっと鏡の中で浮かんでいた男の顔が、突然、ボコッと殴られて吹っ飛んだ。

「ここから出せ!」

 鋭く聞こえてきたのは、さきほどまでボソボソ喋っていた鏡の男のものではなく、若く張りのある女の子の声だ。タンッと軽く床を蹴る音と共に雷の魔法を纏った少女が鏡の中に映って、鏡の男に斬りかかるのが見えた。鏡の男はひとまず少女から距離をとり、無数に分身を作って彼女を翻弄しようとするが、少女は鍵のような剣を掲げると、思い切り床に刺した。途端、彼女の周囲に現れた無数の光の柱が高速に回転し、分身たちを蹴散らしてしまう。

「は? ちょっと、なんですかこれは……」

 やっと鏡の中に気づいた学園長が、今度は仮面の上からでもわかるほど顔を青ざめる。

「この鏡はこの世に二つとない貴重品ですよ! コラ、そこのあなた! 鏡をいじめるのをやめなさい!」

 自身の状況を深く考えたくない心境であったユウは、闇の鏡の中に向かってワアワア騒いでいる学園長の横で「すげー。さながら美少女戦士のアニメのようだな」なんて、現実逃避しながら他人事のように思った。ユウよりも年下であろう少女は、無駄も容赦もなく、美しいと感じるほどの戦いぶりで学園長を無視して戦い続けている。

「光よ!」

 彼女が武器の先端から鏡の男に向けて光線を放った時、鏡全体も眩く輝いた。ウワッ、眩しい! 部屋の中にいた者たちが悲鳴をあげて、光から瞳を保護した一瞬後、「ふぅ」と女の子の息がやけに近くから聞こえてくる。

「やっと出れた……って、ここは?」

 ユウの目の前に、先ほどの女の子がちょこんと立っていた。やはり彼女は、男として高身長ではないユウの肩ほどの身長であった。
 彼女は「ん?」とユウを見上げ、そして部屋の中にいる者たちをすいっと眺めた。

「ここには来た記憶がない。光の世界に戻ったの? それとも、また幻?」

 なにやらブツブツ呟きウーンと考え出す少女に、ユウはとりあえず何か言わなくちゃと内心慌てて口を開いた。

「よく分からないけど、幻じゃないよ」

 言った後で、もう少し気が利く言葉があったんじゃないかとユウはちょっと後悔した。少女が目を瞬かせながら再びユウを見上げてくる。彼女は数秒間、無表情でユウを見つめた後、ニコッと人懐こい笑顔をつくった。

「はじめまして。私、フィリア」

 よろしくね、と慣れた様子で自己紹介される。素直にユウも自分の名前を告げようとして、学園長が大声でいままでこんなことなかったのにとか異世界人が二人とか騒ぎ出し、ついでにグリムも騒ぎだし、場はしっちゃかめっちゃかになった。
 とにかく、これが出会いであった。



「この世界の人は、異世界のこと知ってるんだね。私は、このキーブレードで世界を救うのが使命なんだ。今ははぐれちゃった友達を捜しているの。闇の世界を冒険してたら鏡の中に引きずりこまれちゃって」
「な、なるほど?(世界を救うとか正義のヒーローごっこマニアか?)」


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