仲良きことは美しきかな。
 ゼアノートはげんなりと廊下を歩く。別に未来の弟子が仲良かろうが悪かろうがどうでもいいことなのに――。
 そもそも、人の仲を他人がどうこう操作しようとするのは傲慢では? 仲良くしたければ勝手にするだろう。頭の中で理屈をコネコネ、それでもゼアノートはヴァニタスの前に立った。彼は城の前庭で特に何もせず、風景を眺めている。

「マスター・ゼアノート。俺に何か用か」

 ゼアノートの登場に腕を組み、チラッと視線をよこす幼児。少年時代には立派な筋肉がつく予定の手足も、今はまだプニプニである。

「なぜあの娘につっかかる」

 あの娘がどちらを指すか言わなくても理解したヴァニタスは、あからさまに不機嫌な顔をした。

「弱いくせにヘラヘラしていて目障りだ」
「ただ弱いだけなら、おまえは興味すらもたないはずだろう」

 ヴァニタスの片眉が跳ねる。

「あいつはヴェントゥスをくだらない遊びに誘う。俺たちは早く強くならなくちゃならないのに、無駄な時間だ」
「心身ともに強くなければ意味がない。いまのおまえたちでは、いくら肉体を鍛えたところで無理だ」

 その指摘は自覚していたのか、苦々しい顔をしてヴァニタスが押し黙った。

「考え方を変えてみろ」

 ゼアノートの提案に、ヴァニタスが顔を上げる。

「おまえがあの娘の一番の仲良しになれ」

 ハァ? といわんばかりの小生意気の顔をされたが、ゼアノートは淡々と説く。

「フィリアは、今一番ヴェントゥスを気に入っているだろう。その座をおまえが奪え」
「――あいつの悔しがる顔は、退屈しのぎによさそうだ」

 意味を理解したヴァニタスがにやりと笑う。ゼアノートは思わず笑顔によって更にぷっくりしたヴァニタスの頬を指でつつき、やめろと怒られた。






 今日もゼアノートが書庫で本を読んでいると、当たり前のようにフィリアがやってきた。今日もアクアに髪を結んでもらったらしく、細い三つ編みがちょこんとくっついている。あれが崩れたら結い直しはしたくないとゼアノートが感想をもったところで、バタバタと足音がして、ヴェントゥスとヴァニタスがやってきた。

「フィリア、遊ぼう!」

 ヴェントゥスが満面の笑みで誘い

「だめだ。おい、俺といろ」

 ヴァニタスがヴァニタスを押しのけた。
 よしよし、ちゃんと実行しているなとゼアノートが関心する一方で、フィリアはポカンと口を開けてまばたきを繰り返し、ヴェントゥスはヴァニタスへ怒りだす。

「俺が先に誘ったのに」
「先に誘っただけだろ」

 またもめ合うふたり。
 ヴェントゥスとヴァニタスの仲をどうにかしろとは言われていないと結論づけたゼアノートは、放置して本のページをめくる。

「フィリアは俺とあそぶの!」
「俺とだ!」

 ついにふたりがフィリアの両腕を一本ずつ掴んで綱引きをはじめてしまった。ヴェントゥスとヴァニタスの声と、痛みから大泣きするフィリアの声で本を読むどころではない。ゼアノートはこめかみをおさえ、仔猫三匹をとりおさえた。

「三人で、外で、遊んで来い」

 ぽいと書庫から放り出すと、廊下から声が聞こえてくる。

「誰がおまえなんかと!」
「マスター・ゼアノートが三人でって言っただろ」

 ヴェントゥスの言葉が効いたようで、ヴァニタスが苦虫を噛んだような声をだしたきり黙る。パタパタと遠ざかってゆく足音。
 やれやれ。これで静かになる――とゼアノートが本に没頭したのも束の間、エラクゥスが三人を抱えてきて

「ゼアノート。小さい子はちゃんと見てなきゃだめだろ」
「…………」

 と、書庫に置いていった。



R5.6.14


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