嫉妬とは自分に近い身分の者に抱く感情だ。はるかに雲の上の人物や格下には抱かない、どうしようもなく醜くて、なくしたくて、けれど無視できない。強く自分を縛り捕らえ苛むやっかいなものだ。

 この間、好きな子ができた。ずっと友だちだったフィリアがある時とても綺麗に見えて、その笑顔を見るたびにときめいて、気がつけばフィリアのことがひと時も頭から離れなくなっていた。けれど、フィリアにはすでに恋人が居た。よくある話だが、そうなるとその後の行動はだいたい三通りだ。ひとつは潔く諦める。ひとつは戦って奪い取る。ひとつは別れるまで待ち続ける……。彼女の恋人に敵わないと思ったら諦めただろう。だが俺の場合は違っていた。

 好きな子の恋人が俺の大切な友だちで
 そいつと俺の見た目がまるで双子のように瓜二つで
 能力も人望も優しさも、何よりフィリアを想う気持ちは決して負けているとは思わない。

 もし俺の望みどおりにふたりの関係がいつかうまくいかなくなって、別れたとしよう。その時、これほど似通っている人間とまた付き合おうと思えるだろうか。それでもなんとか俺がフィリアを口説き落とし、新たな恋人になれたとしよう。アイツと手を繋ぎ、キスをして、抱きしめあって、愛し合ったあとに、俺とまたその関係を一から始めるとしたら……そのひとつひとつにアイツの記憶がフィリアの脳裏に蘇ることは想像に難くない。ああダメだ、ダメだ。そんなの絶対に耐えられない。悔しくて苦しくて気が狂いそうになってしまう。

 そう考える一方で、友情の記憶も俺に囁いてくる。ヴェントゥス。あんな奴はめったにいない。このことさえなければ、一生付き合っていきたいと心から思えるほどにいい奴なんだ。気さくで親切でまっすぐで、一緒にいるととても楽しい。友情を捨てるのか。裏切るのか。傷つけてもかまわないのか?
 フィリアを心から愛している。でも、あいつとの友情も宝物なんだ。



「まーた告白されたのか? ロクサス」

 朝。登校一番にさっそく靴箱の中に入っていた手紙をカバンにつっこんでいると、やっかむような口調でハイネが聞いてきた。

「ここのところ毎日だよね」

 オレットが苦笑いし、それにピンツが頷いた。

「ロクサスは大変だろうけど……ヴェンがフィリアと付き合ったから、ヴェンを好きだった子が流れてロクサスに集中してるんだと思うよ」
「何だよそれ。俺はヴェンじゃない」

 舌打ちでもしたい気持ちではき捨てる。顔も名前も知らないのに告白してくる人たちは嫌いだった。人の机や靴箱をポスト代わりに勝手に開けてきたり、友だちとの時間に群れてずかずかと割り込んできては「好きだ」の「愛してる」だの一方的に迫ってきて、断れば泣き喚いたり、ひっぱたいてきたり……しかし、ないがしろにすれば女友達であるフィリアをはじめオレットやシオン、ナミネやカイリに悪い影響を与えかねないことは今までの経験から学んでいたので扱いに非常に気を遣う。

「だよなぁ。男はヴェンとロクサスだけじゃねぇっつーの! はぁ、俺も彼女ほしい〜」
「えっ? ハイネ、ひょっとして好きな子いるの?」

 ピンツが驚いて訊ねると、ハイネは顔を赤くして「いや、まだいねぇけど」とボソボソ呟いた。オレットが微笑む。

「ね、いっそのことロクサスも誰かと付き合っちゃえば? ロクサスに告白されたら、大抵の女の子はオッケーすると思うよ」
「な、なに言ってるんだよ……」

 そこで予鈴が鳴ったので席に着く。
 誰かと付き合ってしまえば。
 先生が来る間、オレットの発言が頭の中でこだましていた。誰でもいい、他の人と付き合ってしまえば、この想いも忘れられるのかもしれない……どんよりと気落ちしてゆくなか、隣のクラスで授業を受けているであろうフィリアのことを想った。


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