リクと一緒に変な学園の世界に迷い込んでから数日がたった。
 私はいま、朝日を浴びながら寝不足でふらついく足取りで学園内を歩いている。
 イデアから教えてもらったゲームがとても楽しくて、ついつい盛り上がって徹夜してしまった後だった。
 あ〜眠いな〜。オルトもいたけど、男子と一晩一緒の部屋にいたってリクにバレたら怒られるかなあ。私だって、リクが他の女の子と一晩同じ部屋にいたら浮気を疑ってしまうような……。ウン。素直に反省して後でちゃんと謝ろう。けど何よりもその前にひと眠りしたい。
 ふわぁあ〜〜〜と、乙女にあるまじき大あくびをしながら歩いていると、道端の木の側にリクが寝ているのが見えた。徹夜のゲームで目がしぱしぱするから良く見えないけれど、銀髪ならリクのはず。
 なんでこんなところで寝ているんだろう? 眠くて頭がまわらないや。

「リク、どしたの。風邪ひくよ?」

一応、眠い目をこすりながら呼びかけるも起き上がらない。
 こんな所で眠っちゃうなんて、リクったらソラみたい。そんなに眠かったのかな。まぁいっか。私も眠いし、添い寝しちゃお。
 彼の腕に頭を乗せてひっつくように眠ったら、いつものように抱き締め返してくれたのでそのままストンと眠りに落ちた。ひとつだけ、いつものリクの香りとは違う、何か別の上品そうな香りがしたけれど、その時は眠気の方が圧倒的に強かった。




「フィリア、フィリア!」

 リクに呼ばれながら揺さぶられて深いところに沈んでいた意識が戻ってくる。でも気持ちよく寝ていたのでまだ目を開けたくない。

「んん……まだ眠いよぉ。リク。もうちょっと寝てようよぉ」

 抱きついていた彼の鎖骨あたりに額を押しつけてヤダヤダ拒否するも「ダメだ。起きろ」とすごく不機嫌なリクの声。あれぇ? リクはこれするといつも「しかたないな」って甘やかしてくれるのに。
 徹夜のゲームがバレてしまって怒っちゃったか……と諦めて目を開くと、目の前にとっても美形かつ、とっても不機嫌顔のリク。

「え、なんで?」

 だってリクは、今抱きついているはず……と思いながらそちらを見るとこれまたとっても美形なディアソムリアのシルバーだった。彼はちょっと困ったようなほほ笑みの表情でこっちを見ている。
 サーッと血が引く感覚。リクに隠れて他の男子と徹夜でゲームした挙句、他の男子に引っ付いて昼寝していた。しかもバレた。

「ど、どうしよ、私、リクだと思って──ごめんなさい!」

 土下座する勢いでシルバーから手を離し頭を下げる。これはセクハラ? ディアソムリアから訴えられる?

「どうして謝るんだ。頭を上げてくれ」
「シルバー、怒ってないの?」
「なぜ俺が怒るんだ?」
「だって私……っていうか、眠っている時に他人から抱きつかれたら嫌じゃない?」
「あまり気にならない。寝ていると、いつも動物たちが寄ってくるんだ」

 私は獣と同じか〜っ! とツッコミたかったが、私が悪いので反論は我慢。
 とりあえずシルバーが不快な思いもせず、怒っていないようでホッと胸をなでおろした。

「まったく。何をやってるんだ……」

 呆れ顔のリクが手を差し出してくれたので、素直に手を取り立ち上がる。リクと間違ったことを理解してくれたみたい。どっちもキラキラした銀髪だし、整った顔をしているし、鍛えているし……。

「ごめん。銀髪が寝ていたからリクかと思って」
「銀髪なら全部俺に見えるのか?」
「徹夜のゲーム明けでめちゃくちゃ眠かったから、よく見てなかった」
「徹夜でゲームしてたのか。イデアとか?」
「うん、そう。あ……」
「そうか。イデアの部屋で二人きりで一晩、ゲームをしてきたのか」
「あの、オルトもいたから……ハイ、すみませんでした」

 怒気を募らせるリクへ全面降伏し、私は「なんでもしますからお許しください」状態になる。別にリクを悲しませたいわけじゃないけれど、大好きだからこうして嫉妬してもらえるのは嬉しいと思ってしまう。

「フィリア」

 そんな時──まだここにいたようだ──シルバーに呼ばれた。やはり慰謝料請求したいのでしょうか。緊張して振り向けば、彼は真面目な顔で「俺のほうこそ、すまない」と謝ってきた。

「え、なにが?」

 シルバーが謝ることあったっけ。心当たりがないけれど、シルバーは頷いた。

「無意識だったが、俺のほうこそ眠っている間、ずっとフィリアを抱きしめてしまった。何かあれば責任はとる」

 空気が凍る。主にリクがいる方の。

「え、あ…………ウン。大丈夫。ありがとう」
「そうか」

 それじゃあと小鳥たちと共に去ってゆくシルバー。
 私は背後からアムセムの顔を見た時と同じ怒気を募らせているリクをどうやって鎮ればいいのか、更に悩むことになるのであった。





R4.12.3


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