「お茶しませんか?」

 ある日、フロイドの片割れのジェイドに誘われた。初めてではない。昼食を共にした時に何気なく異世界の話をした時に興味を持たれたことがきっかけだったと思う。紅茶とケーキをごちそうしてくれると言われれば断る理由もない。

「今日は天気がいいから、中庭に行きましょう」

 フロイドと異なり、キリリとつり上がってる目は理知的で、年下にすら丁寧に接する態度は、フロイドとまた違うかたちで本心が分からない男である。
 ポカポカ陽気に、暖かい紅茶ときれいなケーキ。はじめこそジェイドと他愛無いおしゃべりをしていたが、どうしても気になってることを訊ねてみた。

「ジェイド先輩。あのね、“食べごろ”ってどういう意味?」
「はい?」

 パチパチ瞬きされる。フロイドにいつか言われた言葉を伝えれば、ジェイドはクスクス笑いだしてしまった。

「そんなにおかしい?」
「すみません」

 謝る割には笑いを止める気配がない。ムッと不愉快を顔面に出すと「拗ねないで」と眉を下げられた。

「言葉通りの意味ですよ。果物も野菜も熟してなければおいしくないし、小さいと食べても物足りないでしょう?」

 言いながら、ジェイドがケーキにフォークを刺した。ゾッと背筋が凍る。

「人魚って、人を食べるの?」

 ジェイドの手からフォークが倒れる。今度は顔をそらして肩を震わせて笑いだした。クックッと声を必死に堪えている。

「えぇ、そうですね。食べるかもしれません」

 フロイドが自分にキスしたとき「つまみ食いをする」とか言っていた。

「オレがオキアミちゃんのこと、どう思っているかーー」

 つまり

「おまえを食べてやる(食欲)」

 繋がった。
 そして、目の前の男も彼の片割れ。菓子を与えてくれるのは、同じように大きくしてから食べるつもりなのでは?
 ジェイドはこちらの視線で何かを察したらしい。やっと笑いの波が落ち着いたようで、優雅に紅茶を飲んでいた。

「フィリアさんは、僕らが思っていたよりもずっと幼いのですね」
「確かに、みんなよりは子どもだけど……」

 そこでジェイドの腕が伸びてきて、顎を掴まれ顔を上げさせられたので言葉を止める。フロイドとは違う配置の、魔力を宿す瞳が見つめてくる。笑みをつくった唇からは鋭利な歯がのぞいていた。

「その食べるじゃない“食べる”もあるんですよーー知りたいですか?」

 囁くような声と共に綺麗に笑まれて、回答に困った。よく分からないが、彼の笑顔が美しいからこそ選んではいけなようなーーフロイドに知りたいと答えてしまった時と同じ危うさを感じる誘惑だった。

「それは、ジェイド先輩が教えてくれるの?」
「ええ、いいですよ。お望みなら、僕が教えて差し上げます」

 ジェイドの手袋をした指が頬を滑る。
 自然と顔が紅潮する。ただ頬を撫でられているだけなのに、フロイドとキスしている時と似た雰囲気を感じ取り緊張した。
 コク、と唾を飲み、ジェイドから視線をはがす。

「やっぱり、まだ、いい……」
「そうですか。知りたくなったら、いつでも僕に仰ってくださいね」

 するすると手袋の感触が離れていって、ホッと肩の力がぬけた。
 「思ってた以上に幼い」と言われたことを、頭の中で繰り返す。彼らには自分が小さな子どもに見えている。
 大人びた彼らのこと。子ども体形の自分よりも、アクアのようにスタイルのいい女性がタイプなのかもしれない。
 悲しくなったが、大人の男性であれば自然かつ当然のことだ。それに、悲しみに暮れるにはまだ早い。自分だってまだまだこれから成長するのだから。
 キスをされているのだから、まだ好きになってもらえる可能性はあると信じたかった。もっと大人びた女性になれたら、もしかしたら、フロイドに熱のこもった瞳で見つめてもらえるようになれるかもしれないとーー。


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