「んむ、ぅ、んん……」
口内に突っ込まれた大きくて長い舌に上あごを擦られて、たまらず鼻にかかった声が漏れる。今日で何回目になるのか。一度不意打ちでキスをされた日をきっかけに、たまに人気のないところに連れこまれては、フロイドにキスされていた。
故郷の本で得た知識から、本来、恋愛とは愛を告げ、互いを受け入れ合ってから関係を深めてゆくものと認識している。
フロイドは自分へ「トモダチと思っていない」と言った。しかし、これは「コイビト」でもない。こうして気まぐれにキスはすれども、愛の囁きどころかデートもしないし、手も繋がない。普段、互いがどこにいるかすら分からない。
それなのに、彼とのキスを拒否したいと思ったことがない。こういう行為は特別な相手としかしたくないと感じるのではなかったの。こういう関係をなんて呼ぶものなのか知らない。
繋がっていた唇が離れる。注ぎ込まれた唾液がこぼれそうになり、慌てて飲み込んだ。
「オキアミちゃん、上手くなったね。ほら、もっと舌出して」
フロイドは彼の称する“雑魚”への振舞いから、他人に対し乱暴で粗忽なのかと思いきや、キスする時は違っていた。まるで壊れ物のように触れられるし、長い腕が巻きつくように抱きしめてくるのは安心感があった。垂れ目がうっとり微笑むたびにその蠱惑的な美しさに見惚れてしまうし、香水なのか、とても良い香りがする。
何より、彼はキスが上手いのだと思う。たまに喉奥まで舌を入れられるのは苦しいが、いつもすぐに夢中になって、休み時間があっという間に過ぎてしまう。
「ふふ、気持ちよかった?」
キスを終える時に、決まってフロイドから言われる言葉。もう終わりなの。もっとしたい。付き合ってもいない相手に言う言葉ではないため、頷きながら彼の胸に頭をあずける。毎回、呼吸が整うまでこうして抱きしめて髪を心地よく撫でてくれる。
なんて甘くて、幸福で、苦い気持ちにさせるのか。もうこんな関係はイヤだと言ってしまったらあっさりと、二度とキスしてくれなくなりそうである。
順番は狂っているけど、恋をしていた。この人の心をかき乱す、真意が全く分からない男に。
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