俺は、戦うことが苦手だ。

「おい」
「ん? あ……」

 ボーッとしていると、あいつが話しかけてきた。久しぶりに見る、炎のように赤い髪。

「アクセルじゃん。久しぶり。元気してた?」
「おまえ、なんでこんなところで突っ立ってんだよ」
「アクセルには関係ないだろー?」

 放っとけよ。言外に突き放したのに、アクセルはまだ去らない。

「もうすぐ、ここにソラがやってくる」
「知ってるよ。だから、いるんだ」
「戦う気か? 消されちまうぞ」
「そーかもね」
「あ? 俺の言ってる意味、わかってんのか?」

 アクセルが眉を寄せた。おせっかいな性格だな。

「アクセルこそ、早く行けば? ロクサスを追いかけて組織を抜けたのに、どうしてこんな所にいるのさ?」
「知ってんだろ。……そう単純じゃねーんだよ」

 アクセルがガシガシ頭をかく。困ったときや気まずいときにするクセだっけ。おっさんばかりの組織の中で、アクセルにはナンバーも(外見)年齢も近いこともあって、入ったばかりのときには色々と面倒を見てもらった。確か、その時に覚えたクセだ。
――あぁ、懐かしいな。俺が俺として覚えた記憶だ。
 こみあげてきた、感じるはずのないせつなさを、俺は不思議に思う。ノーバディには心がない。だから、何も感じないはずのに、どうして――。
 遠くで、爆発の音が聞こえる。もうすぐ、ハートレスで組んだ大軍がこっちに来る。俺は、アクセルに向き直った。

「なぁ、いつまでいるんだよ。裏切り者は始末せよ――俺にそうさせたいの?」
「おめーには負けねーよ。ソラにだって勝てると思ってんのか?あいつは……ロクサスなんだぞ」
「どっちも裏切り者だ」

 低い声で言い捨てると、アクセルが僅かに目を見開いた。

「おまえ、そんなに組織に忠実なヤツだったか?」

 そんなわけないじゃん。

「俺も、一応、組織の一員なんだけど」

 ははっ、と笑い飛ばし、シタールを呼ぶ。軽く水をぶっかけてやれば、アクセルは「もう知らねーからな」と呆れた口調で去って行った。

「よかったー。あいつと戦うことにならなくて。相性最悪だもん」

 ビビリで平和主義だった元の俺。だから、今シタールを持っている手が震えるのは、消えるのが怖いと思っているのは演技であって、俺の気持ちのはずじゃないんだ。俺には心がないんだから。

「ヘラヘラしとけば、面倒ごとは避けられると思っていたんだけどなー」

 ぎゅうと強くシタールを握りしめた。これを弾けるのは、次が最後だ。


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