いくつかの世界を旅してきたため、「ああ、これはこの世界の常識なのだな」とフィリアは己の中との常識と差を感じることはあった。けれど、いつも束の間。問題を解決したらキーブレードが次の世界へ導いてくれるから、深く考えず、関わらないで済んできた。
 しかし、異空の回廊が開けず、この闇に溢れた世界に留まっている状態では、さすがに軽視してはいけないとフィリアは真摯に受け止める。「知らない男の部屋にひとりで行くな」とか、「どう使われるか分からないのだから、気安く写真を撮らせないように」とか、信じるにたる同居人のユウが口酸っぱく言ってくることであれば、イマイチ理由は分からないが、きっと大切なことなのだろう。

 さて、休日。おしかけてきたオクタヴィネル寮の三人組からの依頼に、フィリアは頭の中を「?」でいっぱいにする。
 彼らは店に女がいると助かると言っていた。キーブレード使いとして必要されていないことに驚いていた。今まではどの世界でもキーブレード使いとして役に立てていたし、必要とされてきた。フィリアはキーブレード使いとしての己を誇ってきたし、これからもそう在ろうと思っている。
 性別なんて、キーブレード使いには関係ない。男性らしいテラのように筋力に恵まれなくても、アクアのように魔法に特化すれば戦力として劣らない。戦闘では性別なんて容赦される理由にならない。
 キーブレード使いとして求められないことに少々の不満はあるものの、とにかく助けを求められたら応えねば。そうすることでこれまで道は切り開かれてきた。
 彼らと話していた同居人のユウが「どう、やってみたい?」と訊ねてくる。いつも困ってる人を助けると「もっとよく考えて。いつか本当に大変なことになるから!」と叱ってくるユウが「いいと思うけど」と評価していたので、これは受けても怒られないようだ。

「アズールが困ってるなら」
「アズール“先輩”」

 フィリアが一年生以外の友達を呼び捨てにすると、必ずユウに注意される。もう一人の同居人であるグリムは全く自由だし、テラやアクアにもこういうことを言われたことはなかったのに。ユウがいない時に呼び捨てで呼んでもみんな別に怒らないため、先輩・後輩文化には未だ、ちょっと馴染めていない。

「アズール先輩、の、お手伝いする」

 するとアズールたちが喜んでくれたので、こちらも嬉しくなる。

「知らない人から手作りのお菓子とか、もらっても食べちゃダメだからな。変なヤツにしつこくされたら、すぐに俺か先輩たちに言うんだぞ」

 ユウは魔法も格闘もできないし、なんなら彼も異世界人で、毎日学校の授業について行くのがキツイとボヤいているのに、フィリアを毎日心配してくる。キーブレード使いのフィリアからすれば、ユウは守られるより守ってあげる存在だと思っているが、さすがに口には出していない。

「守ってもらわなくても、私強いから大丈夫だよ?」
「ダメ。約束できないなら、今からでもこの話はナシにしてもらう」

 本気なのを感じて、フィリアは少し口ごもる。ユウがどうしてこんなに心配しているのかフィリアにはよく分からない。友達を助けるため、お店でスタンプ押すだけだなのに。

「ん〜……わかった。約束する」

 ユウからの視線の圧が減って、フィリアはこっそりホッとする。その後、フロイドたちがぞろぞろ近づいてきて、あれよこれよとユウに囁いて、結局彼も一緒に働くことになったらしい。イヤそうな顔で渋々雇用契約書にサインするユウを見て、何やら自分のせいでまたユウに迷惑をかけているらしいが、どうしたらいいのか分からず、フィリアは首をかしげるしかできなかった。



R2.9.8


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