光が闇に包まれたとき、暴走が収まった。
Χブレードが再び光を取り戻し、一切の綻びも濁りもない完璧な姿に立ち戻った。ヴェントゥス、いやヴァニタスがゆっくり立ち上がる。とても嬉しそうに吊り上げられた口元が見えた。
「あぐっ……!?」
一瞬だった。
気がつけば、アクアが遥か後方の岩壁に叩きつけられていた。彼女を中心に赤い液体がたくさん飛び散っている。
「え――?」
なに、これ?
アクアの体が、彼女から作られた水たまりにべちゃっと落ちた。綺麗な青髪が赤黒く染まって――それきり彼女は動かなくなる。
「アクア……?」
うそでしょ?
目の前で何が起こっているのかわからない。だって、こんなのあっけなさすぎる。
「うあああぁっ!」
放心していると、次は彼の悲鳴が耳を貫いた。ザックリ切り裂かれた小さな体は、地に落ちるとしばらくビクビク痙攣を繰り返し、じきに静かになった。
瞬きをする程度の時間で、二人も友達が消えてしまった。彼らの心は体から離れ、空のキングダムハーツへ吸い込まれてゆく。
「……あ……あぁあ……」
癒さなきゃ。そうだ、癒せばきっと元に――。
彼らのもとへ行こうと立ち上がり、しかしその場にへたりこんだ。妙に意識がふわふわしていて、生きている心地がしない。
「やっと片付いたな」
ヴァニタスが目の前に歩いてきた。剣を地に差し、呆然としていたこちらの顎を掴み上を向かせると微笑みを寄せてくる。
「どうだ、きちんと目に焼き付けたか?」
カッとなって、体じゅうの魔力が猛った。許せない。愛しさと憎しみがぐちゃぐちゃに交じり合って、激しい気持ちが渦巻いた。ヴェントゥスはこんな事実を知ってしまったらきっと耐えられないだろう。友の死に目に何もできなかったことと、ヴェントゥスを守れなかった自分が心底いやになって、彼を倒せなくても、せめてアクアたちの後を追おうとした、そのときだった。
「――テラ!」
ヴァニタスの背後からテラがこちらに歩いてきていた。助けに来てくれたのかという期待と逃げてほしいという気持ちで彼を呼んだときに気づく――その姿がずいぶん変貌してしまっていることに。大地のような深い茶色は冷たい銀髪に、輝いていた青い瞳は深い金色へ。そして何より、心にあった強い光が消えて濃い闇の気配がする……。
アクアたちの亡骸を見て、テラが笑んだ。
「ヴァニタス。新しい体の調子はどうだ」
目の前が真っ暗になって、今度こそ何も考えられなくなる。ヴァニタスは彼を振り向き笑顔を返した。
「悪くない。マスターは、テラの心をどうしたんだ?」
「少々手を焼いたが、闇へと還した」
愕然としているこちらを放って、略奪者たちは談笑を続ける。
気持ち悪い。吐き気がした。ひどい眩暈もする。
「Χブレード……実に美しい。ヴァニタス、それでさまざまな世界の扉を開くのだ。Χブレード戦争を始めるとしよう」
もう耐えられない。体の力が抜け、意識が薄れるままに目を閉じた。
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