小賢しい本を一掃してやることに決めた。マーリンとかいう魔法使いのように、本当に封印を破り世界を移動されたら困る。フィリアにはできる可能性があった。あの知識の宝庫・エネルギーの集合体であるキングダムハーツの力を使えれば。今はキングダムハーツから距離がありすぎて力を引き出せないのか知識を受け取る術がないのか知らないが、今のうち、フィリアが自力で研究している間に手を打っておくべきだろう。
「外に出るの?」
闇の回廊の前で大量の本を抱えなおしていると、不満というよりは怖がった顔をしたフィリアが話しかけてきた。先ほどこいつがとっさに隠そうとした本も回収済みだ。いま棚に残っているのは青い絵本一冊だけ。
「すぐに戻る」
「行かないで」
どんな意味が含まれていようと、その言葉はこちらを嬉しくさせた。
「ただこのゴミを捨ててくるだけだ」
「本は知識を与えてくれるんだよ。ゴミじゃない」
「おまえにはこんな知識、必要ない」
こちらのそんな気持ちを察しているのかいないのか。フィリアはぷうっと頬を膨らませた。
「私のこと、キミが勝手に決めないで」
それには少し怒りを覚えたので、ハッキリと言ってやる。
「おまえは俺のものだ。だからおまえのことは俺が決める」
短く息を飲み込んだフィリアは、顔を赤らめて眉根を寄せた。
「違う。私はヴェンのもの。キミのじゃない」
意外な返答に感心する。
「ヴェントゥスは俺の中に消えた」
「ヴェンは消えてなんかないっ!」
「今はまだ――な」
怒り顔のフィリアに笑い返しながら闇の回廊の中へ入った。
フィリアの中でヴェントゥスとヴァニタスは別のものとなっていたらしい。こちらとしては喜ばしいことだ。機嫌が良くなって、問題のない本なら持ち帰ってやろうと思った。
本を捨てに行ったはずのヴァニタスがたくさん持ち帰ってきたものは、おとぎ話の本だった。子ども扱いされているのか、それとも彼がこういう本を好きなのだろうか? 認識していたヴァニタスの人物像とほのぼのとした内容の絵本が結びつかなくてしきりに首を傾げてしまう。ついでに、故郷にも絵本はたくさんあったけれどそれらとも同じ内容のものはない。
「なんだ」
扉の前で休憩しているヴァニタスは、視線が合うと片眉を上げた。
「ねぇ、こんなにたくさんの絵本、どこからどういう基準で選んできたの?」
「おまえが知らないものを、適当な城から借りてきた」
魔女の城だったり野獣が住む城からだったりとあっさり言われて困惑する。勝手に借りてきたことはともかく。
「どうして分かるの? この本を、私が読んだことあるかどうかなんて」
すると、ヴァニタスは「何を言ってるんだ?」という顔をした。
「ここの本は、全部おまえが読み聞かせてきただろう」
「えっ?」
「あ」
ヴァニタスがハッと視線を逸らす。
「……なんでもない。忘れろ」
それきり金の瞳を閉じてしまった。
自分が絵本を読み聞かせたのはヴェントゥスだ。心と共に記憶が混じってしまっている? しかし、それにしては彼の意思がハッキリ宿った返答に感じた。ならば、自分が彼に読み聞かせをしたのだろう。けれど、それが可能な環境は……。
「まさか。でも――そんなこと……」
ヴェントゥスを通して彼にも伝わっていたのだろうか。現在の自分とヴェントゥスの距離と同じように。
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