フィリアは、つい先ほどまでロクサスたちが立っていた石畳を呆然と見つめていた。どんな姿になろうと彼についてゆくと誓った。互いにあれほど愛し合っていると確認したはずだったのに――彼を助けるために振り上げた剣を見て、向けられた嫌悪と絶望の表情が忘れられない。
突然リクが呻き、崩れ落ちるように膝をついた。大きく上下する肩、苦し気に繰り返される咳にさすがのフィリアも我を取り戻す。
「リク……?」
「触るなっ」
差し伸べかけた手を跳ね除けられ、フィリアは痛む手をかばいながら硬直する。リクはすっかり体力を消耗してしまったのか汗だくで、まるで重病人のように土色の顔をしていたが、それでも地を這うようにフィリアから離れようともがいていた。
「すまない……だが、今は俺に近寄らないでくれ。頼む……」
「けど――」
放っておくことだってできない。苦しむ知人にどうしたらよいのか分からずに、フィリアは途方にくれてしまう。すると、二人を遠巻きに囲んでいた人たちをかき分けて、やっとテラの姿が現れた。
「二人とも、無事だったか」
「テラさん」
「ヴァンパイアが来たんだ。やっとのことで追い払ったが――」
説明しようとしたリクへ迷いなく近寄って、テラは彼を抱え上げる。リクは苦しそうに呻いたが大人しくそれに従っていた。
「話は後だ。早く治療しないと」
「テラ……彼女を見てくれ」
力ないリクの声に従ってテラの視線がフィリアに注がれる。その右手にあった鍵の剣を認めると、彼はこれまでにないほどに動揺を見せた。
「キーブレードだと……!?」
突然の大声に、フィリアはビクリと怯え後ずさる。驚いた拍子に落とした剣は、鈴のような音と共に光となって消えてしまった。
「これは、いったいどういうことだ」
テラの深刻なつぶやきの意味をフィリアが知るわけもなく……ただただ、萎縮するのみだった。
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