「ロクサスが来てる」
初めは願望だったが、リクの様子からすぐにフィリアはそう直感し、確信していた。リクの言うやつら≠ヘ、ロクサスだ。
「そこらじゅうにノーバディが現れて、いま街は大混乱だ。北と東はテラが受け持ってくれた。ソラは西を頼む」
「わかった」
「待って!」
二人がいっせいに振り向いたので、フィリアは息を飲んで、勇気を振り絞って言った。
「いっしょに行かせて。ロクサスが来ているのなら、私、会わなくちゃ!」
「会ってどうするんだ」
「えっ……?」
すかさずリクから冷たい口調で訊ねられ、フィリアはひるんだ。
「あいつらの仲間になるつもりか? それとも、食われてやるっていうのか?」
「そんなつもりは……ただ、私は――」
「それ以外に、あんたにいったい何ができる」
「は、話をしたいの……! 私、ロクサスとちゃんと話したい!」
「あっちはそんなつもりなんかないさ。会うなり噛まれておしまいだ」
「リク!」
ソラが右へ左へ顔を動かし、フィリアとリクの間でおろおろとした。
「ソラ。おまえは先に行け」
ソラを押しのけ、リクがフィリアの目の前に立った。フィリアが怖々顔を上げると、彼の水色の瞳が鋭く光っている。
「おねがい。少しでいいの。ロクサスに会わせて」
「だめだ。人間でいたいのなら従ってくれ」
「あっ!?」
リクに手首をきつく掴まれ、フィリアは思わず身をよじった。しかし、まるで手錠のように外れない。
「いたい、離してっ」
「リク、乱暴は」
「ソラ。街では火事も発生している。逃げ遅れてる人も多いはずだ。急いでくれ」
「でも…………わかった」
躊躇いながらも、ソラはバルコニーから飛び降りて行った。フィリアはといえば、リクの手を振りほどけないまま階段を降りて、宛がわれた部屋の前にまで戻らされる。やすやすと開かれた鉄の扉をくぐり、天蓋つきのベッドの上へ放り投げられた。
「何があってもこの部屋からは出るな。ここなら、あんたを守ってやれる」
「リク――!」
天蓋のカーテンを閉められ、足はやにリクが部屋から出てゆく。柔らかなベッドの上できっちり閉じられたカーテンを開こうとフィリアがもたついている間に、扉が輝いて、施錠される音が耳に届いた。
やっとベッドから這い出たフィリアは慌てて扉を開けようとしたが、施錠の役割を果たすはずの錆ひとつない内鍵が、まるで溶接されてしまったかのように動かない。
「開かない? どうして――?」
「すまない」
「リク、ここから出して!」
懇願するも、冷徹なる扉の向こうの気配は消えた。
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