誰にも見せる必要はないし、好きなように書くといいってリクがくれた。日記を書く習慣はなかったけれど、せっかくなので、少し書いてみようと思う。





1日目

箱庭が燃えた。
ロクサスたちがヴァンパイアだってわかった。
ナミネが連れて行かれちゃった。
今まで、たくさん騙されてたの?


ロクサスたちの元へ行ったら、殺されるか、ヴァンパイアの手下にされてしまうらしい。死ぬのは怖いし、血を求めながら永遠を生きるなんて恐ろしい。
あの時、私は、リクを押しのけてロクサスの元へ行けなかった。


これからは、私だけ、リクたちについて行かなゃいけないらしい。箱庭のみんなは、他の場所に行ったと教えられた。
ソラたちは私を守ってくれるみたいだけど、ロクサスたちを滅ぼそうとしている。


ロクサスに会いたい。
ナミネに会いたい。
どうすればいいんだろう。
もう、会えない?
会ってはいけない?





2日目

服がないので、リクたちに買ってもらうことになった。
箱庭から一番近いこの村のこと、ずっと知っていたけど来たことはない。買い物に付き合ってくれたソラにいろいろ聞かれても、何も答えられずに「ごめん」と言うと、ソラは「わからないことがあったら、俺が教えてあげる」と言ってくれた。嬉しかった。

お店の人たちは、私の格好を怪しんでいた。(「箱庭の生き残りが、強盗にきたんじゃないか」って)でも、ソラが上着に隠していた何かを見せると、急にニコニコ……ううん、ヘコヘコしはじめた。ソラに「何を見せたの」って訊いたら、すごく厚い札束だった。もしものために、一応持たせられてるって。


旅にはどんな服がいいのかわからなくて、お店の人に頼んでしまった。いくつか選ばれた組み合わせの中で一番地味なものを着てみると、ソラが「それがいい」と言ったのでこれに決めた。皮の服なので、なるべく濡らさないようにしないと。それに、少し重い。
買った後で、リクになるべくズボンって言われてたことを思い出した。失敗?


他に必要な物も急ぎ足で買い揃えて、リクとの待ち合わせ場所に行こうとしたとき、家々の合間から箱庭が見えた。
ずっとあそこで育ってきたのに、もう戻れないんだって思ったら、いてもたってもいられなくて、いつの間にか箱庭の前に走っていた。
3階にあった私たちの部屋、みんなでご飯を食べた食堂、ロクサスといた雑木林まで、みんな燃えて真っ黒だった。
……昨夜のことが、夢だったら。
胸がぽっかり抉れてしまったみたいだ。
いっそのこと、大泣きしてしまおうと思ったけれど、リクたちがやってきたのでやめる。
旅が始まる。
私がここに帰ってくる日は、きっと、もうない。





3日目

移動は馬、寝るときはテントらしい。「ここに合わせる」ってリクが言っていた。何にだろう。


ソラの馬はやんちゃな性格で、リクの馬は目が優しかった。箱庭では動物を飼っていなかったから、動物に触れるのは初めてかも。
休憩時間に、リクが馬の撫で方を教えてくれた。そのときのリクの目も、優しかった。


テントは、ソラが古いカバンを開くと、たくさんの道具が列になって現れて、あっという間にできてしまった。
どう見ても、あのカバンに入りきると思えない大きさと量。私の雑貨もあの中に入っているはずだけど、いったいどうなってるんだろう?


テントはひとつしかないので、私もソラやリクと一緒に寝ることになった。ソラは、ちょっと寝相が悪い。何度毛布をかけてあげても、お腹が出ちゃう。
リクが見張りをしていたので、あの時のお礼を言うと、いきなり見回りに行ってしまった。私、何か気に障ることをしてしまった?


明日には、新しい町に着く。


私、どんどんロクサスから遠ざかってる。
でも――





2011.11.5




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