機関の連中が集まるロビーから繋がっている台所。誰かの要望で取り付けられたそこは、冷蔵庫やら電子レンヂやらが所狭しと置かれているため、大人が二人立てば窮屈に感じられるほど狭い。

「てめぇ、ざけてんのか」
「イタタタタ、ちょっ、マジ痛いって!」

 なんだ、ケンカか?
 俺は暖め直そうとしていたコーヒーを片手に耳を澄ませる。
 怒りに満ちてるのがアクセルの声で、痛がっている方がデミックスの声。片方がデミックスという時点でろくなハナシではなさそうだが、キレているのがあのアクセルということに、俺は興味を惹かれずにはいられなかった。

「確かにセンパイのアサシンをちょっと勝手に使ったけどさ、そんなに怒らないでよ! 俺のダンサーに追跡なんて無理なんだからいてててて」
「それはそれでむかつくが、俺は、おまえが、勝手に、あいつに、手ぇ出したことに怒ってんだよ!」
「ギャーーッ! 折れる折れる、ギブギブギブッ」

――手ぇだした、ねぇ。
 機関には内部で揉めることを避けるため「他人の花嫁には手を出してはいけません」なんて決まりがあり、デミックスは結構、女に見境がないところがある。(それでも、普段はビビッて手を出さないが)大方、珍しく勇気を振り絞ったデミックスがアクセルの女にちょっかいでも出したのだろう。
 あーあ。やっぱりかよ、つまんねぇ。
 俺はなんだか損した気持ちでその場を去ろうとした……のだが、次の奴らのセリフでまた立ち止まる。

「あいつはロクサスの花嫁だって知ってただろ!」
「だってロクサス、フィリアを持ち帰ってこなかったじゃん。もう捨てたのかと思ってー……」

 フィリア? 最近どこかで聞いた名だ。ロクサスの? いや、坊やにはまだ花嫁はいないはず……。
 俺は必死に記憶を探り、そしてようやく思い出す。確か、デミックスが話していた箱庭の娘だ。

「かわいいし、血は超うまいし、もったいなくって」
「なんで味を知っている――――噛んだのか?」
「アチッ! ちょっと、火ィ消して! まだだよ、まだ、味見しただけ! もう少しってところでヴァンパイアハンターたちに邪魔されちゃって、まだ噛んでないよ!……本当だって!」
「ってことは、つまりおまえ、舐めはしたんだな?」
「え……ええっと……そうだ、フィリア、ロクサスのこと嫌いじゃないって言ってたよ。まだ望みはあるんじゃない――なんちゃって……ハハ……」

 たっぷり一秒の間のあとに、デミックスの悲鳴が更に大きく響きはじめた。

「テメーは、少しは反省しろ!」
「してる、してる、超してるってぇ!」

 「だから、もう勘弁してよ!」とデミックスが叫んだと思ったら、俺のいる方向――ロビーへ続く道の方へ逃げてきた。別に隠れる必要はなかったかもしれないが、俺はとっさに闇の回廊の中へ引っ込む。デミックスは俺に気づくことなく、半泣きで走り去っていった。

「くそ。あいつ、逃げ足だけは速い……」

 残されたアクセルは頭をガシガシかいて――やがて舌打ちを打つと、どこかへ向かって歩き出した。




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