濃厚な香水が充満する白い部屋。
唯一の家具であるベッドの上で、男――デミックスは豊満な美女を組み敷いていた。
「あん、デミックス、もっと……」
「焦んなよ。いくらでもくれてやるから」
甘ったるくねだる女に、デミックスはあやす様に唇を寄せる。非常に飽きやすい性格の彼にとって、彼女は68番目の花嫁だ。
「ところでさ、何の用? 見てのとおり、今とってもイイところなんスけど」
睦みあう手を休めずに、デミックスは戸口に立っている男に話しかける。話しかけられた男――シグバールは、面倒そうにやれやれと肩を竦めた。
「おまえが全く部屋から出てこないから、この俺がわざわざ任務を伝えに来てやったんだぜ?」
「任務〜? 俺、まだ休暇中」
「おまえをのんびり休ませる余裕がなくなったってことだ。昨日、箱庭がヴァンパイアハンターどもに見つかってな。全部燃やして、証拠隠滅したってハナシ」
「箱庭が!?」
デミックスは弾かれるようにシグバールの方へを振り向いた。起き上がり、悔しそうにガシガシと頭をかく。
「マジかよ〜。あそこから来る子はみんな俺好みだったのに」
「おまえは女なら誰でも好みって言うじゃねぇか」
「箱庭は、特に素直な子が多くって」
50年前の院長も含めてね、と付け足すと、シグバールがくつりと笑った。
「俺は40年前の方がいい」
「えぇー、若い血の方が甘いじゃん」
「確かに処女の血は最上だが、女は熟れたほうが色々といいんだよ」
「そう言いながら、若い子を自分好みにするのが趣味でしょ?」
「あれはまた別のハナシってやつだ」
「もぉ〜、デミックス」
二人の会話の長さに焦れたのか、何も纏っていないデミックスの上半身にマニキュアで彩られた女の手が絡みはじめる。
「――んで、どんな任務? ヴァンパイアハンターたちをやっつけろっていうのならお断りだけど」
「今回は箱庭に代わる施設の探索だ。ま、金をチラつかせりゃ、すぐにでも見つかるだろ」
「うわっ、めんどくさー。そういう仕事はバッテンの方が向いてますって」
「あいつは別の仕事で忙しいってよ。あのサイクスをバッテン呼ばわりとは、おまえも言うねぇ」
「あっ、しまった。サイクスには内緒にして」
「任務をしっかりこなせたら考えてやる。そんじゃ、俺は確かに伝えたからな」
ひらひらと片手を振って、シグバールが部屋を出て行こうとする。しかし、デミックスの「あ!」という声に足を止めた。
「そういえば、箱庭にはロクサスお気に入りのフィリアがいたよな。花嫁になった? ここにいる?」
「いいや。昨日、坊やは誰も連れて帰ってこなかったぜ」
「えぇっ、どうして!?」
「俺が知るかよ。本人か、一緒に行った奴らに聞け」
そして、今度こそシグバールは部屋から出て行った。背後から首筋を愛撫してくる女の存在など気にも留めず、デミックスは考えるように顎に手をあて唸りだす。
「ロクサスのやつ、フィリアを花嫁にするのやめたのかな……せっかく手を出さないでおいてやったのに」
「ならその子、デミックスがもらっちゃえばいいじゃない」
女の囁きに、デミックスは名案だと頷いた。
「いいな、それ。ロクサスが捨てたなら、俺が食べちゃおうっと」
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