ヴァンパイアハンターになると決意したところで、キーブレードが出せなければ戦えぬ。フィリアはテラに連れられて、昨日の爪後が残る街へ繰り出した。壊された家屋、花壇、火事の焦げ跡を見る度フィリアの心は痛んだが、街の人たちは犠牲者を出さずにヴァンパイアを追い払ったことを喜んでいるようで、笑顔と活気に溢れていた。
 テラに連れられて入った店はこの街の中でも目を見張るほど立派な門構えで、ピカピカなガラス戸を潜れば、銀色に光る槍や弓矢等の凶器や、十字架がたくさん壁に飾られているのが目に飛び込んできた。
 フィリアが店の品々を見回す間に、テラは高齢の店主にいくつか言って、様々な品を持ってこさせた。テラは慣れた様子で渡されたものをフィリアに与えてくる。

「キーブレードが使えない間の――お守りのようなものだ。これではザコ以外のヴァンパイアは倒せないし、退けるのも難しいだろう」

 生まれて初めて握る銃にナイフ、首には立派な十字架を下げられて、それらの扱い方を丁寧に教えられる。銃に至っては店で練習もさせてもらえた。一発撃つだけで腕全体に痺れるほどの衝撃と、耳をつんざく銃声に心底驚く。銀の弾は狙いとかなり離れた場所に撃ちこまれていた。

「せっかく買ってくれたのに、使いこなせなくてごめんなさい」

 テラがフィリアの肩をそっと両手で掴んで言った。

「奴らは、フィリアが今の俺たちの距離で撃ったとしても躱せる。だから、銃口が身体に触れていない限りは当たらないと思ってくれ」
「はい」
「もし奇跡的に当たっても、少し動きを鈍らせるだけ――隙を見て、日の光の中に逃げ込むのが一番安全だ」

 ないよりはマシ。いくら銃の腕が上達しても、剣すら出せない状態では、ヴァンパイアと二人きりになったら殺される。フィリアはお守りにしてはずっしり重い銃を腰に下げながら、もう一度頷いた。



 荷物を抱えてフィリアが教会に戻ってきたときは、夕暮れが終わろうとしていた。
 延々と準備に付き合ってくれたテラは、朝と同じ爽やかさでフィリアに笑った。

「俺はこれからマスターに会ってくる。明朝には出発するから、今夜はゆっくり休むといい」
「はい。おやすみなさい」

 教会の入口でテラと別れ、フィリアは荷物を抱えなおしながら中庭を横切って、与えられた部屋に戻ろうとした。まるで昨晩の出来事など無かったほどに整えられた中庭は、美しい緑と花々、女神の彫像が飾られており、まるで別の世界みたいに思えた。少し影がかったところに人を見つけて、思わず足を止めた。銀髪の男だ。こちらに背を向けて、少し俯いている。

「リクだ……」

 彼はまだこちらに気づいていない。
 フィリアはふと考える。
 ロクサスと共に行くことを邪魔したリク。
 フィリアがヴァンパイアハンターになることを大反対しているリク。
 いくら傷ついても、必死にフィリアを守ろうとしてくれたのもリク。
 いま、ひとりで立ちすくしている彼の様子は、フィリアからは孤独で寂しそうに見えた。
 昨日のこともあり、ソラとリクの出発も明日になったとテラから聞いた。このまま部屋に戻れば、もう話す機会はないかもしれない。話しかけてみようか。

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