フィリアの唇からこぼれた言葉を聞き、場の空気が張り詰めた。歓迎の笑顔を浮かべるのはソラのみで、テラは意外そうに目を見開き、リクは怒気を募らせていた。勧誘してきたエラクゥスの表情は微動だにせず、フィリアには彼の感情が読み取れない。

「歓迎しよう。新たなキーブレード使いよ」

 そして、エラクゥスはリクに宥める手ぶりをしつつ、一同の顔を見渡した。

「さて、早速だが、今後の話をしなければならない」

 しゃんとしていたテラの背が、更にぴんと伸ばされる。フィリアもつられて姿勢を正した。

「リクとソラは、この後本拠地へは戻らずに、かつて我らの本陣であった忘却の城へ行ってもらいたい」
「えっ、どうして?」

 ソラがぽかんと訊ねると、エラクゥスはゆるく首を振った。

「箱庭の襲撃報告後、あそこに居座っているヴァンパイアたちの活動が急に活性化しているとの報告があった。本来ならば、かの地を守るべき私が行くところではあるが、今回の任務はそれよりも優先しなければならない」
「いまあそこにいるのは13機関のヴァンパイアたちだ。やつらなら、担当はソラたちだろう」

 テラが師の言葉を継ぎ説明すると、リクもソラもうん、と頷いた。13機関の単語にフィリアは耳を澄ませる。ロクサスが所属している組織だ。できればソラたちについていきたいと考えるが、それは当然、周囲にも見透かされていた。

「フィリアはどうするんですか。マスターでも、俺たちでも、次の任務は危険だ。今の彼女を連れて行くわけにはいかない」

 リクの言葉に、マスターエラクゥスは眉間のシワを更に増やした。

「緊急事態ゆえ、ひとまずは私と同行させよう。ただし、一週間以内に再びキーブレードが出せなければ、カイリの元へ送る」
「それって、どういう意味ですか?」

 突然提示された制限時間にフィリアが驚いて身を乗り出すと、エラクゥスはじっと見返してきた。

「私は長年探し続けてきたヴァンパイアどもの居場所を突き止めた。これより討伐へ向かわねばならない。おまえが一週間以内に再びキーブレードが出すことができれば、我が元で修行させよう。それ以上かかるようであれば、一度本拠地に送る。修行を始めるのは再びキーブレードを手にした時とする」
「そんな」

 彼らとロクサスがいつまた戦い、殺し合うかも分からないのに、安全な場所でのんびりしてる暇などない。しかし、その条件でなければスタートラインにすら立てないのだ。
 フィリアが考えている間に、リクが机をとん、と叩いた。

「マスターの条件は甘すぎる。俺たちは戦争をしている最中だ。一週間でキーブレードを再び出せないようなら、ヴァンパイアハンターになることを諦めてほしい」
「リク、それは厳しすぎるよ!」
「ソラこそ、分かってるはずだ。特に女性のヴァンパイアハンターはやつらに無残に殺されている」
「俺だって、フィリアにそうなってほしくはないけど……!」

 リクがツンと顔をそむける。しかし、その言葉は逆にフィリアの意志を固めてくれた。

「わかりました。一週間で再びキーブレードを出してみせます。出せなければ、ヴァンパイアハンターになることを諦めます」

 この程度の試練、乗り越えられなければ、ロクサスにたどり着けるわけもない。
 答えた後、フィリアはしっかりとリクを見た。

「その代わり、私がキーブレードを出せたら、きちんと仲間として見てください」
「……わかった」

 リクは美しい色の瞳を細め、悲しみとも安堵ともわからない表情を浮かべていた。




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