――はじまりは一ヶ月前。
 ここはどこにでもある平和で華やかな町――だった。ヴェントゥスたちがやってきた、あの日までは。
 夜を越えるごとに発見される血を抜き取られた変死体。すぐにヴァンパイアの仕業と見抜いた町長は、顔に傷をもつ壮年の男性を筆頭とした十代の若者と女性の三人組をここへ招いた。ヴァンパイアを倒すことを生業としたヴァンパイアハンターたち。ヴェントゥスたちのマスターであるゼアノートが語るには、顔に傷がある男はエラクゥスといいゼアノートと深い因縁があるらしい。
 エラクゥスのことはゼアノートが狩る。残った二人のうちどちらが女性を狙うかヴァニタスと揉めていると、ヴェントゥスはヴァンパイアハンターたちが連れたもう一人の少女の存在に気がついた。格好から察するに見習いといったところか――血色の良い肌にたおやかな肢体、無垢で清純な美しさに食欲がそそられた。ひと目で少女を気に入ったヴェントゥスは、彼女を次なる獲物に決めた。










 ヴェントゥスはヴァンパイアハンターたちを観察することにした。本来ヴァンパイアは陽の光の下で活動できない生き物だが、ヴェントゥスだけは特別だった。何事にも存在する枠から外れた稀な存在。そのためにゼアノートやヴァニタスが眠っている間の見張りをさせられる事が多く、ヴェントゥスにとっては不満がある能力だった。
 念のために使い魔を通してヴァンパイアハンターたちを追いかけると、町長が用意したホテルを拠点とした彼らは町のいたるところをうろつき始めた。

「もしかして、俺たちを探してるのか?」

 誰も寄りつこうとしない古屋敷や迷路のような地下水路を探索するヴァンパイアハンターたちを眺めながらヴェントゥスは嘲笑する。そのような汚らしい場所に隠れるなど時代遅れ。最近は己の美貌や能力を使い、生きた人間の家に居候することが主流だった。

「昼の間に見つけられたら、マスターたちは何もできないまま消されちゃうな」

 暢気にそんなことを呟きながらヴェントゥスは食い入るように少女を見つめる。知り得た彼女の名前はフィリア。いい響きだと思ったが、食べたらきっと忘れるだろう。
 可愛らしい顔の下にある細い首に喉が鳴った。はやくあの肌に牙を突き立てて温かい血を貪りたいという衝動に襲われるが、拳を握ってそれに堪える。我慢すればするほどに得たときの悦びがいっそう大きくなることをこの身体になってから学んでいた。
 いつ彼女の前に姿を見せる? 恐怖と悲鳴は最高のスパイスだ。くすくすと笑いながらヴェントゥスはその時を待ちわびた。




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