移動・2日目

フィリアは馬を操れないので二頭で行く。フィリアを俺とソラの後ろへ交互に乗せるため、速度は出せない。

イェンシッド様から連絡がきた。奴らに噛まれていたのは院長である老婆のみ。

ヤツらは気まぐれに施設の観察にきていたようだ。恐らく、将来喰らう獲物の品定めといったところか。残酷な。

テラたちが追っていた奴の手がかりを掴んだらしい。そうなると、これからフィリアを連れて合流するのは危険かもしれない。



「リクは寝ないの?」

 ドキリとして手帳を閉じる。
 声の主を探すと、テントの中からひょっこりと顔を覗かせていた。

「今日は野宿だからな。ソラと交代で見張りをしているんだ」
「ふぅん……ねぇ、そっち行ってもいい?」

 正直なところ、あまり彼女には近寄りたくないのだが、無碍に断るのも気が引けた。

「その毛布を持ってくるならな。今夜は冷える」
「うん」

 火の側にもうひとつ椅子を準備すると、フィリアがやってきた。確かに冷えるとは言ったが……何も頭から毛布をかぶらなくていいだろうに。
 フィリアは腰掛けてからすぐに話し出さず、少しの間、パチパチと火が弾けるの音だけが響いた。

「あのね。私、リクに言いたかったことがあるの」
「何だ?」

 もそもそ毛布を揺らし、フィリアが見上げてくる。隠者のように毛布に包まっているフィリアが、俺には怯えているように見えた。

「その……あのとき、庇ってくれてありがとう」
「……あぁ、あれか」

 なんのことかと思えば。
 思わず後頭部のたんこぶを撫でそうになる。不可抗力とはいえ、我ながらなんともマヌケな気絶だった。
 機嫌が顔に出てしまっていたらしい。気がつくと、フィリアが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

「まだ、痛む?」
「気にするな。もう治った」
「よかった……」
「……」

 フィリアの微笑に焦燥が高まってくる。やはり、近寄らないほうがいい。
 勢い良く立ち上がると、驚いたフィリアが「リク?」と訊ねてきた。顔を見ないよう、俺は彼女に背を向ける。

「周囲の見張りに行ってくる。テントに戻ってもらえるか?」
「あ――うん。見張り、がんばってね」
「ああ。俺がいない間に何かあったら、ソラを叩き起こすといい」
「叩き……わかった」

 フィリアが真剣な声で俺に頷き、テントへ向かう。その姿がちゃんとテントに入るのを見届けて、俺はやっと深く息を吐き出した。





2011.9.14




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