三日ほど馬を乗り継いで、フィリアたちは目的の町に辿りついた。
「わぁ……!」
レンガ造りの巨大な時計塔を見上げ、フィリアは声を上げる。箱庭の近くにあった農村が比べ物にならないほど、その町は広大で賑やかで、活気に満ち溢れていた。
この三日間、フィリアにとって旅で見聞きしたもの全てが珍しく興味が尽きないものであったが、これほど大きな町になると驚きも一際だ。
フィリアがポカンと口を開けて上を見ていると、リクが僅かに笑った。
「フィリア、よそ見してるとはぐれるぞ」
傷だらけの鞄をぶら下げたリクは、目元に隈をこしらえて、とても疲れた顔をしている。昼は馬を操り、夜は野宿。そのうえ見張りまでこなしていたのだから仕方ないと思われるが、同じ作業をしていたソラは、元気いっぱいの様子だった。
「私、こんな大きな町って初めて」
「わかる、わかる。俺たちも初めて来たときはワクワクした」
「確か、あの時はソラが迷子になったよな」
「だから、あれは迷子じゃないってば!」
ソラがむっとリクを睨むと「わかった、わかった」と適当なあいづちが返ってくる。
いったいどんなことがあったのだろうとフィリアが想像していると、どこからか懐かしい音色が響いてきた。
「これは……」
フィリアは辺りを見回して、ある人だかりを発見する。
「フィリア、どうしたんだ?」
フィリアの視線の先を追ってソラもその集まりに気付いた。特に若い女が多く、皆、熱心に熱い視線を中央へ贈っている。
音色に耳を澄ましたリクが、理解したように「あぁ」と言った。
「この音はシタールだな。旅の演奏家でも来ているんじゃないか?」
「シタール……」
「行ってみよう!」
「だめだ」
目を輝かせるソラに、リクは軽く目元を押さえる。
「まずはテラと待ち合わせの場所へ向かわないと。観光はその後でな」
それ以上ソラの顔を見ないよう、地図に視線を向けてリクは足早に歩き出した。フィリアとソラは残念そうに集団の方へ目を送ると、リクを小走りで追いかける。
「テラはまだ、か……」
リクに連れて来られたホテルは、前回のボロ宿など比べ物にならない程に豪華で、しかも最上階。部屋じゅうに揃えられた見るからに高級な家具を見て、フィリアは落ち着くことなどできなかった。
「広いうえに、すごく綺麗……」
「スイートだから、これくらい当たり前だよ」
おそるおそる部屋を冒険するフィリアに、ソラがちょこちょこついてくる。
「すいーとって?」
「ホテルで、一番贅沢な部屋のこと」
「贅沢な……あ、これは何?」
フィリアは机に置かれた小さな箱のようなものを発見する。それは触れると弾力があるが、ゴムではなかった。
「これは俺たちの。『緊急用だ』っていつもリクが――」
「ソラ。余計なことは教えなくていい」
だるそうに上着を脱ぎ捨てながらリクが言う。
「俺はここでテラを待つ。その間、フィリアにこの町を案内してきてやったらどうだ?」
「そうだな。フィリア、行こう!」
「あ、うん」
「日が落ちる前に戻ってこいよ」
眠たそうなリクに見送られ、フィリアたちは部屋を飛び出した。
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