「イェンシッドさまと連絡がついた。テラとはここから東へ三日の場所にある街で待ち合わせだ」

 報告書にペンを走らせながら早口に説明するリクに、ベッドに転がっていたソラは「ふぅん」と生返事をした。考えていたのは今日助け出したフィリアのこと。あの時あと少しソラが遅れたら、彼女はロクサスに喰われていた。

「なぁ、リクー」
「ん、どうした?」

 手を休めずにリクが普通に返事をする。器用だなと感心しながら、ソラはベッドをごろごろした。

「金色の目になるのは、ヴァンパイアが自我を失う極限状態になったときだよな」
「ああ」
「リクが戦っていたとき、ロクサスの目は何色だった?」
「フードに隠れてよく見えなかったが……確か青だったよ、おまえの色によく似てた」
「俺があの部屋に着いたときには、金色になりかけたんだ」
「そこまで深い怪我を負わせた覚えはないな。あの程度でそこまで消耗するなんて、よっぽど血を摂り忘れていたんじゃないか?」
「うーん……」

 枕に顔を埋めながらソラは納得いかない顔をする。

「普通、逆だよな。まだ食べる気のない大切な子に会いにいくなら、襲わないよう血を摂ってから会いに行くはずじゃないか?」

 そこでやっとリクが筆を止め、ソラの方へ振り向いた。

「あの場で花嫁にしようとしたのかもしれないだろ。考えすぎじゃないか」
「だって、すごく辛そうだったんだ。それに、極限状態では花嫁を造り出す余裕はないって言ったのはリクじゃないか」
「ソラ」

 リクの声に咎めるような色が含まれる。

「それ以上余計なことを考えるな。情をかけたら倒せなくなる」

 ソラは眉を寄せる。思い出すのは先ほどフィリアに言われた言葉。

「共存、できないのかな」
「……さっき俺がフィリアに言ったことを忘れたのか?」

 ソラは勢い良く起き上がった。古いベッドが悲鳴を上げるが構わない。

「あのときのリクだって戻せたんだ! ヴァンパイアだって――」
「ムリだ」

 静かに、きっぱりとリクが言う。

「リク」
「あれは……奇跡だった。そう何度もできることじゃない」
「…………」

 リクが暗い顔で再び報告書に向かう。ソラは心の中でリクに謝り、それでもその方法を考えながら隣の部屋で泣いているであろうフィリアのことを思い浮かべた。



* To be continue... *






2011.5.29




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