「危ない!!」
「きゃあっ!」

 声と共に、ロクサスの顔があった場所、フィリアのすぐ側の壁に大きな鍵が突き刺さった。
 鍵が飛んできた方向を見れば、幼さを残した顔立ちの、ツンツンとした髪型をした少年が立っている。

「まだいたのか……」

 紙一重で鍵を避けたロクサスが物憂げに呟く。少年は倒れている青年を見て、ロクサスを睨みつけた。

「おまえ、よくもリクを!」
「襲ってきたのはそっちだ」

 フィリアの側から鍵が光の消え、次の瞬間には少年の手に戻る。ロクサスや青年――リクのようにその鍵を剣のように構え、ロクサスも白と黒の鍵を少年に向けた。
 広くない部屋の中で再び戦闘が始まってしまい、フィリアはとっさにリクにかぶさるよう床に伏せ目を瞑る。

「そこまでだ」

 突如、低い男性の声で剣の弾きあう音が止まった。フィリアが目を開くと、ロクサスの武器は、青い長髪と整った顔にクロスの傷をもつ男――サイクスがクレイモアで、少年の武器をアクセルが二つのチャクラムで受け止めていた。

「二人とも、邪魔するなよ!」
「愚かな。ここへ来た目的を思い出せ」

 サイクスの言葉に、ロクサスが強く歯を噛み締める。

「よぉ、ソラ。相変わらず元気そうだな」
「おまえは……おまえたち、十三機関だな!」

 少年――ソラがアクセルたちに向かって言う。聞いたこともない名称にフィリアの混乱は増すばかりだった。

「じゅうさん、機関……?」
「ヴァンパイアの集団さ。この施設を卒業した人間を食らってきたんだ」

 フィリアの疑問に答えながら、目を覚ましたリクが起き上がる。まだ痛むのか頭の後ろを撫でていた。
 アクセルと武器を弾き合わせたソラが、リクの隣に着地する。

「リク、平気なのか?」
「ああ。でも、奴らが集まってきたな」
「むしろ好都合だって。全員まとめてやっつけてやる!」
「ソラ。ここには一般人もいるんだぞ」
「あ……そっか」

 ソラが苦い顔をすると、サイクスが失笑した。

「安心しろ。こちらとしても、まだおまえたちとコトを構える段階ではない」

 暗い部屋の中にもっと深い闇が現れる。いつもロクサスたちが箱庭にやってくる時に使う闇の回廊だった。

「アクセル、箱庭を焼き払え。ゼムナスからの命令だ」
「わかった。けどよ、まだ……」
「ナミネはすでにマールーシャが回収した。我々の任務は完了している」
「ナミネ……!?」

 フィリアは部屋をぐるりと見回しナミネを探した。しかし、闇の中でまるで光っているように白い彼女はどこにもいない。

「フィリア、俺と一緒に行こう!」

 サイクスに押さえつけられているロクサスがフィリアを呼んだ。フィリアは行こうとするが、リクが腕を伸ばしそれを阻む。

「ちょっと、通して」
「奴らはヴァンパイアだと言っただろう。ついて行ったら喰われるだけだ」
「変なこと言わないで! ヴァンパイアなんて本当にいるわけないでしょう?」
「信じられないのなら、本人たちに確かめてみるといい」

 リクは決してフィリアを通そうとしてくれない。仕方なくフィリアはロクサスに訊ねてみた。

「ロクサス、この人の言っていることは嘘だよね?」
「……それは……」

 一言「そうだ」と言ってくれれば終わる問答のはずが、ロクサスは口ごもって俯いた。フィリアの心にひやりとした焦燥が芽生え始める。

「アクセル、サイクス、違うよね?」
「……」

 アクセルが無言で視線を逸らし、サイクスは無表情のまま黙ったままだ。

「どうして何も答えてくれないの?」
「……」
「…………本当に、ヴァンパイアなの?」

 フィリアの体が震えはじめる。

「それじゃあ、今まで16歳になって出ていった子たちは、みんな……?……私も?」

 ロクサスがハッと顔を上げた。

「違うっ、それは俺だって……!」
「ロクサス、時間がない。フィリアのことは諦めろ」
「な――嫌だっ、離せ、うわっ!?」
「ロクサス!」

 ロクサスを闇の回廊へ突き飛ばし、サイクスもその中へ消える。
 呆然とするフィリアに、残されたアクセルがチャクラムを構えながら声をかけた。

「悪ィな、フィリア。昼にした約束、守れなくなっちまった」
「アクセル……」

 アクセルが視線を下に、そして右へ動かした。

「今更、言い訳するつもりはねぇ。だが、ロクサスがこれを知ったのはついさっきだ。あいつは本当におまえを」
「やめろ」

 短く割り込んだのはリク。庇うようにフィリアとアクセルの間に立った。

「それ以上彼女を惑わすな。結局、おまえたちがすることは変わらない」
「……そーだな」

 アクセルは自嘲するように口端を吊り上げた後、手に持っていたチャクラムを思いっきり投げつけた。宙を踊るように舞うチャクラムは部屋に炎を撒き散らし、あっけなく火は部屋に燃え移る。
 ギリギリでチャクラムを避けたソラがアクセルを睨みつけた。

「何するんだよ!?」
「サイクスが言ってただろ。ここを消すんだよ」

 次々に飛び回るチャクラムをソラとリクが叩き落とすも、火は消えるどころか激しくなってゆく。いよいよ焦げた臭いと黒い煙が部屋を充満をはじめたころ、アクセルの側に闇の回廊が開かれた。

「あっ、待て!」

 気付いたソラが駆け寄ろうとするが、炎の壁に邪魔されてしまう。

「じゃあな。そいつのこと、頼んだぜ」

 フィリアとチラリと目を合わせて、アクセルは去っていった。
 フィリアがぼうっとその場所を見つめ続けているとリクに腕を掴まれる。

「ソラ、脱出するぞ!」
「わかった!」

 廊下はすでに業火で塞がれていて近寄れないので三人は窓へ向かった。壊れた窓から見える、フィリアにとって見慣れた景色は三階なので当然高い。

「先に行く。ついて来てくれ」

 軽々と地面に着地するリクの姿を見て、フィリアは目を丸くする。

「すごい。こんなに高いのに……」
「怖い?」
「うん……」
「それじゃあ、俺と一緒に跳ぼう。手を出して」

 隣にいたソラがフィリアに手を差し出す。その笑顔が一瞬ロクサスのものとかぶり、フィリアは己の目を疑った。

「どうしたんだ? 早く!」
「……」

 フィリアが戸惑いながらも手を取ると、ソラと共に地面に向かって飛び降りた。




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