ロクサスが目覚めたばかりで、まだぼうっとしていたときのことだ。
 フィリアがロビーのソファで読書をしていると、ロクサスが隣に腰掛けじっとフィリアのことを見てくる。あまりに熱心な視線を送ってくるものだから、フィリアが横目で気にすると、ロクサスはずいっとフィリアに近寄ってきて、可愛らしくコテンと首をかしげて見せた。

「フィリアは俺と年齢が近いノーバディなのに、どうして俺とそんなに違うんだ?」
「え。違うって、どこら辺を指して言っているの?」
「たとえば」

 ロクサスがフィリアの胸もとのふくらみを指す。一瞬カッと恥ずかしさで顔が熱くなったが、フィリアは冷静を務めて教えてあげた。

「そりゃあ、ロクサスは男だし、私は女だから、体のつくりが違うのは当たり前でしょ」
「俺は男で、フィリアは女だから――そこに何が入っているんだ?」
「ひっ!?」

 そうして無遠慮に胸にぺたっと手を置き、ふみふみもみだしたものだから、フィリアは叫びそうになったが、ビンタを放とうとした右手をこらえた。ロクサスは記憶のない生まれ方をしたものだから、まだ赤ん坊のようなものだ。現にフィリアの胸をもんでいるロクサスは口を半開きにし新しい感動を覚えた無垢な子どもの顔をしている。

「やわらかい」
「ねえ、いい子だから、手を放そうか……」
「もっと触りたい。だめか?」
「だめ」

 頬を痙攣させながらロクサスの手を引っぺがすと、ロクサスは次に己の胸をぺたっと触り「硬い」と言った。

「それと、フィリアはいいにおいがするし……俺、フィリアを見てると胸がドクドクって鳴るんだ。ずっと見ていたいって思うんだ」

 しょんぼり胸から手を放しながらロクサスが呟いたので、フィリアは更に混乱した。

「これも男と女だからなのか?」
「いや、えっと……その」
「教えてくれ。記憶のあるフィリアなら分かるんだろう?」
「いや、私もちょっと分からない……」

 たじたじになって、本を落としソファの上で後ずさるフィリア。フィリアが逃げる分、ロクサスが身を乗り出してくる。どこまでもきらきらと純粋な瞳でじっと答えを待っている。
 困り果てた瞬間、こんな時の保護者役――アクセルの存在をピンと思い出し、フィリアはこの状態をすべて解決できると確信した。

「そうだ! アクセルなら分かるんじゃないかな! 男同士だし」
「アクセルも、フィリアのことをそう思っているのか!?」
「え、そっち?」
「そんなの俺、なんだか、嫌だ……」
「ちょっとロクサス、そんな顔しないでよ……」

 困り顔でうつむくロクサスに、フィリアはなんだか悪いことをしてしまったような気持ちにかられ、心がないはずなのに、こんなやりとりをアクセルが戻ってくるまで続けることとなった。








 数か月後、強力なハートレスと立派に戦えるようになり、しっかりといい子に育ったロクサス。
 二人きりでの任務の後、ふとした会話の流れでフィリアが当時の話をすると、ロクサスは真っ赤な顔で謝って、アイスを奢ってくれた。
 大好きなシーソルトアイスを受け取りながら、もう気にしてないけどね〜などとへらへら笑うフィリアへ、ロクサスがちょっと拗ねた顔をし、

「あの時は、よく分かってなかったけど。気持ちは今もそのままだからな」

 そう耳元でささやかれて、フィリアがアイスを時計台から落としてしまったのはまた別の話である。





H29.2.18




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