旅立ちの地が闇に堕ちてゆく。
 実の娘のように可愛がってくれたマスターエラクゥスが、マスターゼアノートに討たれ、テラの腕の中で光となって消えた。マスターゼアノートから聞かされていた計画通りに。

「テラ」

 物影から抜け出して、傷心のテラへ近寄る。彼は私に許しを請うような顔を見せた。

「フィリア、マスターが……俺たちの世界が……全部、俺のせいだ」

 私の肩に顔をうずめる、迷い子のように弱々しいテラの背をなでてあげる。彼は、こんな姿を私にしか見せてくれない。私の愛しくて、かわいいひと。

「そうね。すべてはテラ、あなたのせいよ」

 普段の私らしからぬ発言に、ビクリと揺れたテラが、困惑した視線で見つめてくる。

「すべて、あなたが闇を抑えきれないからこうなったの」

 彼を睨みつけて、突き放した。テラは縋りつくように手を伸ばしてきたが拒否する。

「あなたを信じていたのに」
「ま、待ってくれ、フィリア!」

 背を向け、闇に繋げた異空の回廊へ飛び込むと、耐え切れずその場にへたり込んだ。涙がぼたぼた太ももを濡らす。足元に広がる闇に爪をたて、獣のように唸った。

「闇の中で負の感情をまき散らせば、闇に溶けるぞ」

 気づけば、マスターゼアノートが側にいた。膝をつき、優しい手つきで私の涙をぬぐってくれる。

「そうか。テラを愛したか」
「こんな、こんな私なんて……いっそ、闇に溶けてしまえばいい!」

 マスターゼアノートはやれやれと私をあやした。

「テラを愛しても、私への忠義を全うしたおまえに感謝するぞ、フィリアよ」

 テラへの愛よりもこの人を選んだ私に、泣く資格も後悔する権利もない。けれど涙が止まらない。

「もう少しの辛抱だ。私が全てを終わらせて、おまえの苦しみも悲しみもすべてぬぐい去ってやろう」

 キーブレード墓場ですべてが終わる。本当に彼を失う。全て、その日のためにみんなを裏切って生きてきた。
 後戻りはできない。解放される日はすぐそこにある。
 虚ろな足取りでも、前に進んだ。キーブレード墓場。私に相応しい墓場へ。



H29.2.17




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