山道の途中に作られている畑をウロウロ、フラフラ……やっぱりないよね。どうしよう。困ったなぁ。どうしても必要なのに。

「おい」
「ひゃっ」

 びっくりして振り向けば、無愛想面したヴァニタスが片眉を上げて立っていた。

「なにしてる」
「ヴァニタス! とってもいいところに!」

 言いながら両手で片手を掴む。驚いたのかヴァニタスがビクッとしたけれど、気にしてなんかられない。

「いきなりなんだ」
「助けてほしいの!」
「は?」
「プライズポット! 出して、今すぐ!」
「…………」

 なんとなく事態を理解したのか、満月だった目が半月になった。

「ヴェントゥスといい、おまえといい……俺を便利な菓子箱と勘違いしてないか?」

 声は、ため息混じりだった。





「はろぃん?」
「ううん、ハロウィン。外の世界のお祭りなんだって。みんなでオバケの格好をして、いたずらしながらカボチャで作ったお菓子を食べるの」
「おまえたちの解釈は、いつもどこかずれてる気がするな……」
「そう? でも、今回はテラがこう言ってたんだもん。間違いないよ、きっと」
「ふん。“テラ”――か」

 嘲笑を浮かべたヴァニタスが、つり上がった目を嫌そうに細めた。

「とにかくそれでね、暇だから、みんなでハロウィンをしようってことになったんだけど……」

 濃厚な味わいのパンプキンケーキに、焦がしカラメルを蕩かせたパンプキンプリン。ふわふわとした食感のパンプキンカップケーキに、しっとりとした歯ごたえのパンプキンマフィン。生地がパリパリ音を立てるパンプキンパイと、焼きたてサクサクのパンプキンクッキーや、揚げたてふんわりパンプキンドーナツ!

「胸焼けがする」
「――を、アクアと一緒に作ろうと思ったんだけどね、肝心のカボチャ、昨日の煮物に使ったものが最後だったみたいで……。だから、ヴァニタス。完成品を下さい!」

 お願いします! と、期待を込めてヴァニタスを拝むが、彼は難しそうに眉を寄せた。

「……プライズポットが落とす菓子に、カボチャ味のものはない」
「そ、そんなっ!?」

 そうだったっけ!? バースデイケーキやウェディングケーキなんてものまであるのだから、なんでも揃ってると思っていた。
 最後の望みが絶たれ、がっくり項垂れると、ヴァニタスがプライズポットを生み出し、叩き、何かを得た。

「ほら。バルーンメロンやるから諦めろ」
「やだっ! カボチャとメロンじゃ全然違うよ!」

 カボチャがなければハロウィンができない。カボチャがなければ暇つぶしできない。本当はサプライズとしてヴァニタスやマスター・ゼアノートも招待するつもりだった。せっかく仮装まで準備したというのに……!

「ん……待て。カボチャ味の菓子はないが、カボチャならあるぞ」
「ほんとう!?」
「ああ。俺が生み出したものじゃなかったから忘れていた」

 ヴァニタスがニヤリと笑い、ズルズル、モヤモヤと大きな闇が溢れてゆく。その暗闇で形成し、生み出されたものはとても大きい、大きい……

「カボチャ、だけど……」

 蔦をうねらせ、黄花をつけた、口から鋭い牙を覗かせて、周囲を走る魔物馬車。

「カーストキャリッジという」
「食べられるの?」
「…………」
「…………」



 今年のハロウィンは、やはり中止となった。








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