今日の任務は結構手こずって、達成したときにはすっかり夜になっていた。俺もフィリアもコートは泥だらけ、顔は擦り傷だらけのひどい有様だった。
 今日は、いつも楽しみにしているシーソルトアイスはお預けだ。はやく城へ戻ろうと闇の回廊を開いたとき、ふと一緒にいたフィリアがぼーっとつっ立って、空を見上げているのに気がついた。

「フィリア、何してるんだ? 早く帰ろう」
「ねぇ、ロクサス。月が綺麗だね」
「え、月?」

 素っ頓狂な返事に戸惑いつつ、彼女の指の先にある月を見上げた。見事な満月が星を従えとっぷりと暗闇に浮かんでいる。

「ああ。そうだな」

 でも、それがどうしたのだろう。
 とりあえず同意を返すと、フィリアはにっこり微笑んだあとうっとりとため息をついた。

「こんなに綺麗な月を見るの、わたし、生まれてはじめて」
「ちょっと、おおげさじゃないか? 城から見えるキングダムハーツの方がよっぽど光り輝いてるし」

 もう、と半目にジロリと睨まれ、少々たじろぐ。

「いま、この瞬間だから、わたしにはこんなに綺麗に見えるんだよ」
「……そうなのか?」

 任務の達成感のおかげか? それとも時間や季節が関係してる? 腕を組んで考え込んでいると、フィリアはいつの間にか月を見上げるのをやめて、闇の回廊へ足を踏み込んでいた。

「もういい。ロクサスったら、鈍感なんだから」
「ごめん……?」
「とりあえず、で謝らないでよ」

 ピシャリと叱られ、頭をかく。なんで俺怒られてるんだろう。
 こういう時の女の子は苦手だ。期待されている答えを間違えると不機嫌になる「スイッチ」を押してしまうかもしれないから。あ、もうコレ押しているのかもしれないけれど。
 どうしたものか困りきっていると、体の半分以上を闇の回廊の中に入れていたフィリアが顔だけでこちらを振り向いた。

「君といっしょに見る月だからだよ」
「え」

 いい逃げしたフィリアが入り込んだ闇の回廊を見つめしばし呆然と考えたあと、意味を理解した俺は全速力で回廊の中へ飛び込んだ。





H24.6.24




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