金の瞳は、闇に堕ちた者の証。

鏡に映る自分の目を見るたびに、いつも、そう思い知らされてきた。










マスター・ゼアノートの命令で、ヴェントゥスの監察と、テラへの"準備"の為に、私がこの地へ来てから……どれくらいの年月が経っただろう。

私達が長い間待ち望んだ計画が、いよいよ明日…………始まる。




星が降っている空の下、私は一人丘にやって来た。

星を見上げていたら、ガラにもなく、ため息が出た。

「……いよいよ明日、か……」

…………ついに、きてしまう……。

「明日のマスター承認試験のことか?」

「っ……!?テラ……!」

しまった、ぼんやりしてた。

振り向いたら、私の後ろにテラが立っていた。

私の焦りなんて知らずに、テラは私の隣に来て微笑んだ。

「緊張するなんてフィリアらしくないな」



…………彼は何も知らない。

私は、彼を闇に堕とすためにここに来た。

……彼を闇へと誘い、最後にはマスター・ゼアノートの器とするために。



「…………ひどいなぁ。試験なんて生まれて始めてだもん。私だって緊張くらいするわよ」

「大丈夫だ。俺たちは毎日修行してきたじゃないか。それに、一緒にキーブレードマスターになるって、約束しただろ?」

「……一番最初にした約束だね……。覚えててくれたんだ」

「フィリアとの約束は、全部覚えてるに決まってるだろ」

「うん……。私も、テラとの約束は全部ちゃんと覚えてる……」

言葉を交わしながら、私達は手を繋ぐ。

テラと私は、いわゆる"恋人同士"ってやつだ。

マスター・エラクゥスは薄々察してるかもしれないけど、ヴェンは知らない。

……私達の仲を知っているのは、アクアだけ。

「……フィリア」

テラがこう囁くときは、キスする時。

私はそれに目を閉じて応える。



…………私は、彼を騙している。

彼の愛を、利用している…………。



「……そうだ、アクアからこれを預かってたんだ」

しばらく寄り添って星空を見ていたら、テラが思い出したようにポケットから何か取り出した。

…………星?

「……それは……?」

「つながりのお守りだ」

「つながりの、お守り……?」

テラからその"お守り"を渡された。

手の平サイズの"お守り"は、細かいところまでしっかりと丁寧に作り込まれていた。

……そういえばアクア、最近ずっと部屋に篭って何かしてたっけ。

「どんなに離れても、俺達はつながっている……そう願いを込めて作ったものらしい」

「……私達は……つながっている……」



……違うよ。

私が繋がっているのは……闇だけ。

それは、どんなにあがいても、決して逃れられない。



だから……

このお守りに、私は相応しくない。

このお守りを持つ資格は、私にはない。




私はお守りをそっとポケットにしまった。

「……ありがとう、テラ。……明日アクアにもお礼言っておかなきゃ」

「ああ。……名残惜しいが、明日は試験だ。今日はもう帰ろう」

「……うん」

テラが先に歩き出した。

テラの背中が、少しずつ遠くなっていく。

私から離れていく。



……ああ、終わってしまう…………!



そう思ったら、私は思わず彼を呼び止めてしまった。

「テラ!!」

「フィリア?……どうした?」

不思議そうに振り返るテラを見て、私はすぐに正気を取り戻した。



私は、今何を言おうとした……?



マスター・ゼアノートを裏切るの?



……そんなこと、できるはずないのに。



私は慌てて笑顔を作る。

「…………ううん、なんでもない。……ねえ、もう一回キスして」

「フィリアから言ってくるなんて、珍しいな」

テラは驚いたけど、すぐに微笑んで、また優しくキスをしてくれた。

「(……ごめんなさい)」







いよいよ明日から始まる。

私達の幸せの終わりが。





2010.3.21




原作沿い目次 / トップページ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -