その日も、俺はヴェントゥスを感じていた。
見慣れた緑色のステンドグラス。眠っているのか、目を閉じたあいつの姿が描かれている。満ちていた感情は喜びと満足感――とても幸せな気持ちだった。
「ヴェントゥス、どうだった?」
ぼんやり反響するように、フィリアの声が聞こえてくる。現在、ヴェントゥスがいる場所は自分の部屋。フィリアと一緒にベッドに座っていた。
胸の奥からこみ上げてくるむずむずとした気持ちを抑えながら、ヴェントゥスはフィリアに頷く。
「ありがとう。久しぶりだったから、すっきりしたよ」
「私、してあげるのって初めてで……痛くなかった?」
「ぜんぜん! 自分でするより気持ちよかった」
どうやらヴェントゥスの胸いっぱいに広がっているこの気持ちは、フィリアに何かをされたせいのようだ。しかし、いったい何をすればここまで幸福になれるんだ?
俺は、更に注意深く二人の会話に耳を傾ける。
「そうだ、今度は俺がフィリアにしてあげる」
「えっ!?」
びっくりしたフィリアは、顔を赤らめて視線をそらした。ヴェントゥスはフィリアの耳元に顔を寄せて、なるたけやんわり、甘やかに囁く。
「いいだろ? 優しくするから」
「あっ――」
ヴェントゥスに手を引かれ、フィリアがベッドに寝転んだ。フィリアを見下ろす格好となったヴェントゥスは、その顔にかかった髪を指先でそっと払ってゆく。
本気で抵抗はしないものの、フィリアは耳まで真っ赤にさせてヴェントゥスに拒否を訴える。
「ま、待って、ヴェン」
「俺じゃ、イヤ?」
「イヤじゃ、ないけれど……でも、心の準備が……まだ」
「俺に任せて。……力、抜いて」
伏せぎみの目をしばしさ迷わせた後、フィリアはおそるおそる力を抜いていった。ヴェントゥスが上機嫌な笑みを浮かべながら、さっそくフィリアに触れてゆく。
滑らかで、綺麗な肌。フィリアがピクピクと反応する様を、内心非常に楽しんでいるのが俺からは手に取るようによくわかる。
「んっ……くすぐったいよ」
「動いちゃダメだってば。俺にちゃんと見せて」
「うぅ……恥ずかしい……」
「フィリアだって、俺のを見ただろ?」
ヴェントゥスの指がつぅと滑るように耳元をなぞりあげると、フィリアは目をぎゅっと閉じた。もじもじと足が動き、きわどく捲れるスカートの裾や浮かび上がるラインが艶かしい。
一見、無害そうな顔をしているが、こいつも男だ。そういう方面の欲も当然持ち合わせている。――くそ、今すぐそこを代われ。もしくは融合しろ。
「フィリア、いくよ?」
「う、うん」
フィリアの体の穴に、ヴェントゥスが手を添える。
まずは入り口をくるりと縁どるように。フィリアから鼻にかかったような甘い声が微かに漏れると、感動と興奮にヴェントゥスは瞳を輝かせた。
「へぇー、ここって、こういうふうになってたんだ」
「やぁっ……そんなこと言わないでよ」
「恥ずかしがることないのに。――次は、中に入れるね」
ヴェントゥスは一度手を離し、再びフィリアに近寄せていった。緊張と集中が高まってくるのを感じる。ここからが本番だ。
「痛かったら、教えて……」
「……んんっ」
傷つけないように、痛みを与えないように……。ゆっくり、ゆっくりフィリアの中へ沈めると、フィリアの手が頼りなくベッドのシーツを握り締めた。
「動かして、いい?」
「……ヴェンの好きにして……いいよ」
「わかった」
ヴェントゥスは手をそうっとやさしく動かし始める。時に単調に、時にかき回すようにフィリアの中を探り、出入りする。
何度か繰り返しているうちに、フィリアから緊張が抜けていって、くったり脱力するのが感じ取れた。
「フィリア、大丈夫?」
「うん……なんだか、幸せ……」
フィリアがうっとり、とろけるように微笑んだ。
その無防備な艶美さにすっかり言い表しがたい衝動に苛まれることになった俺に対し、ヴェントゥスは暢気に「かわいいなぁ」などと思いながら、フィリアに背を向けさせて、また同じように行ってゆく。
「あっ……!」
ヴェントゥスがあるところを擦った時、フィリアが控えめに悲鳴をあげた。
「ごめん、痛かった!?」
「ううん、平気……でも、奥は痛い」
「わかった。気をつけるよ」
「は……う」
それから、ヴェントゥスが納得するまでその行為は続けられた。
終了した後のフィリアはぽーっと惚けていて、すっかり骨抜きにされてしまっていた。
「これでおしまいだよ」
「ありがとう……」
「フィリア、よだれ」
「え――きゃっ」
慌てて口元を隠すフィリアを見て、ヴェントゥスの心の中ではフィリアから与えられた、官能的でもあったあの快楽が思い出される。
「ねぇ、フィリア。気持ちよかった?」
「うん……とても」
「じゃあ……次もまた、俺としようよ」
「『――耳かきしあいっこ』」
グシャ。
マスター・ゼアノートがレポートを握りしめる。せっかく苦労して書いたのになんてことを。
途中まで嬉しそうに読んでいたマスターは、不満そうに俺を睨みつけた。
「ヴァニタスよ……これはいったいどういうことだ?」
「マスターに言われたとおり、あいつの心で見たまま、聞いたまま、思ったままを書いただけだ」
「……おまえにレポートを書かせたのは、どうやら早かった、いや、向いていなかったようだな」
「まったく、紛らわしい」などぶつくさ文句を言いながら、マスターは俺のレポートにつけた皺を伸ばし始めた。
「しかし、それほどイイものなのか……。ヴァニタスよ、私に――」
「マスターは綿棒派だろ。それに俺は男相手にしたくも、してもらいたくもない」
――なのに、後日。
とある世界で、マスターが竹の耳かきを買い求めている姿を目撃してしまったのは……俺の見間違いであってほしい。
2011.7.7
\やるやるやる〜/
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