ちょっとした届け物の帰り道。もうすぐやってくるクリスマスに備え、町の至るところで華やかな飾りつけがなされていた。側を通るだけでも嬉しくなって、るんたるんたと跳ねるように歩いてしまう。
 もうすぐ我が家である、村長さんの家に着く。家を出る前、カイリがソラに送るクリスマスプレゼントをどうしようって悩んでいたっけ。ソラはカイリから貰えればなんでも喜ぶと思うのだけど、その「なんでも」っていうのがとっても大変なんだ! と頭を抱えていた。私は知っている。ソラも同じ悩みで頭を抱えていることを。結局このふたりは一緒にいられるだけで幸せなのだろう。野暮だから私もリクも口を挟まない。どうぞ心ゆくまで、大切な人に特別な贈り物をする、素敵な時間を悩み、楽しんでほしい。
  そんなことを考えながら角を曲がったら、ぽすっと誰かの胸に顔からつっ込んでしまった。ちっともよろけず、暖かくてたくましい感触に相手は男性なのだと即座に判断。顔を見るより先にごめなさい! と頭を下げた。

「ぼうっとしてました」
「まったく。もう少し、隙だらけだという自覚をもったらどうだ」
「え」

 黒い手袋に二の腕を掴まれて、ギクッとする。顔を上げなくても分かるけれど、見ればやはり、若き時のゼアノートがニヤッと口端を上げていた。

「来い」

 拒否も承諾も言う間もない。あっという間に闇の回廊がみるみる開き、その中に飲み込まれた。




 タールのような空気から抜けた瞬間、プハッと新鮮な空気を吸い込んだ。喉から肺までつめたい空気を吸い込むと、寒さで意識はすぐに明瞭になる。
 ディスティニーアイランドらしからぬ空気の冷たさ、深々と降り積もる雪。サンタクロースの世界にいると、すぐに分かった。
 ま、まさかこの世界でもまた悪いことを……!?
 キーブレード使いではない私が彼を止めることができるだろうか――無理。速攻で答えが出て青ざめるこちらに構わず、彼は私の二の腕をひっつかんだまま、ずんずんサンタクロースの家へ近づいていく。助けて、サンタさん! あ、でも、ゼアノートが相手では、彼まで大変なことになっちゃうかも……!
 どうしよう。「ちょっと」とか「待って」とか、とぎれとぎれに言葉が出るも、全く取り合ってもらえないまま、可愛らしいクリスマス仕様の扉を開いて、ゼアノートは無遠慮に奥へ進んでいった。サンタクロースはお気に入りのイスに座って、プレゼントの配達先リストを眺めている。

「おお、来たか」

 サンタさん逃げて、と叫ぶ前に、サンタクロースはひょいと振り返ってゼアノートに微笑んだ。

「プレゼント詰めのアルバイト?」

 今年は大雪だったらしく、サンタクロースが屋根の上の雪かきをしたら、少々腰を痛めてしまったとのこと。
 子どもたちにプレゼントを配るのは専門知識と資格と許可証が必要で、サンタクロースしかできないため当日までに根性で治すらしいけれど、プレゼント詰めなら誰でもできる。しかし、急にアルバイトを雇うのも難しい。困っていたところに現れたのが、我らが宿敵・ゼアノートだったようだ。

「おい、いつまでそんな恰好をしている」

 気がつけば、ソラのように黒いサンタ服を来ているゼアノートがいた。ご丁寧にサンタ帽もかぶっている。

「制服だ。着替えたら工場に来い」

 そう言い残すや私の分の制服を投げよこしてきて、スタスタと行ってしまうから、慌てて物陰を捜し、サンタクロースの衣装を真似た、白いモコモコに縁どられた赤い服に袖を通した。寒い気候を無視したミニスカートが気になるも、ゼアノートを放っておけばどんな悪いことをしているかわからない。仕方なくきちんと着用した。
 バタバタ工場に飛び込むと、すでにゼアノートはマシンに乗ってプレゼントつめを行っていた。まるで雪崩のような音をたてて、ラッピングされた箱にプレゼントが押し込まれている。正直、心を籠めて送るプレゼントの梱包がこんな力技で壊れたりしないだろうかと心配になるものの、長年サンタクロースがそのようにやってきているのだから、まぁ、いいのだろう。ファンシーな装飾された機械に乗っかったゼアノートが黙々とドンドコドンドコつめてゆく図は、すごく違和感があった。
 手伝いのため、隣の機械に座ると、ゼアノートがいつもの何を考えているか分からない表情でこちらをチラッと横目で見てきた。すぐにふいっと逸らして、またプレゼントをガンガン詰めて行く。何か悪いこととか、闇とか入れてない――よね? とジロジロ観察する。

「さっさと詰めないと、間に合わないぞ」
「あ、うん」

 サンタクロースが困っているんだった。早速ぽちっと機械のボタンを押して、投げ込まれてくる空箱にプレゼントを押しこめはじめた。ぬいぐるみ、プラモデル、絵本、ボールやアクセサリー、文房具……。
 こうしている最中でも、ゼアノートが気にならないわけがない。こちらの心配をよそに、ゼアノートはただただ淡々と、しかしものすごく正確にプレゼントを箱につめていた。とても小さいものでも狙い外さず詰めるのだから、素直に感心してしまった。

「上手だね」

 見事な腕前に、思わず話しかけたところ、彼は誇ることも謙遜もせず言った。

「おまえは、発射するとき、わずかに狙いが上に逸れている。もっとしっかりハンドルを握って、発射口を下げて撃て」

 そうして、私の手の上からハンドルを握ってくるものだから、ギョッとするような、ビクッとするような、ドキッとするような、とにかく内心焦ってしまった。性格や行動はともかく、すごく綺麗な顔をしているから、不意打ちで顔を近づけられると心臓に悪い。

「初めからこの角度でやれば、小さい箱でも……聞いているのか」

 ゼアノートの長いまつ毛を見ていたら、ハンドルを見ていた金の目がこちらを見てくるのでコクコク、コクコク、頷いた。

「さっさと片付けるぞ」

 そうして、真面目にプレゼント詰めを再開する。本当に、純粋に、普通にお手伝いをしているだけ……なのだろうか。悪いことをしようとする素振りが全くない。
 もういいや。私も真面目にサンタクロースさんの手伝いをしよう。そう決めて、それから数時間、真面目にプレゼントをつめまくり、なんとかアルバイトを完遂したのだった。

「なんとか間に合った。ありがとう」

 ニッコリ微笑むサンタクロースに、こちらもにっこり笑顔を返す。子どもたちが悲しい思いをせず、無事クリスマスを迎えられそうでよかった。
 それじゃあ、と帰ろうとするとき、サンタクロースが待ちなさいと引き留めてきた。

「アルバイトの報酬を渡さないと」
「ああ。約束のものを」

 食い気味に、ゼアノートがずいっと彼に一歩寄る。はい、と何かを渡されていて、その手元を見ようとしたとき、くるくると何かを巻きつけられた。金色の、きれいな――。

「リボン?――わっ!」

 己に巻きつけられたリボンがきゅっと結ばれるのを見届けた次の瞬間、ひょいっと米俵のように持ち上げられた。

「は、え、なに?」

 ゼアノートが歩き始めたので、バイバイと手を振るサンタクロースが離れて行くのをポカンと見つめる。

「俺はサンタを助けたいい子だったからな。欲しいものをもらえるらしい」

 ゼアノートがあのからかうような声音で言った。な、なんだそれは。なんだそれは!?

「わ、私だってアルバイトしたのに――」
「なんでも願えばいいさ。俺の願いの後にな」

 ちょっと見直して損をした。結局こんなオチなのか。
 だ、誰かぁ! 叫んだ声虚しく、闇の回廊が開かれた。




 




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