日差しはだいぶ温かくなったが、まだ少し肌寒い季節。今日の修行が終わりフィリアと遊ぼうと思ったら、城の中に姿がなかった。あちこち探しまわり、ついに山頂にその姿を見つける。彼女にしては珍しく、石のベンチの上ですやすやと眠っていた。膝にはなにやら難しそうな分厚い本。最近、読書に凝っているらしく、もしかして夜更かしでもしていたのだろうか。
せっかく一緒に遊びたかったけれど、起こすのもかわいそうだ。自然と起きないだろうか、そんな期待をもって隣に座るも、やはり眠りは深いようでフィリアは全く起きなかった。
ふと、フィリアの膝に開いてあった読みかけの本が、ずるずるスカートの上から滑っていく。とっさにそれを掴むと、フィリアがうっすら目を開けた。
「う……ん?」
「あ、起こしてゴメン。本が落ちそうだったんだ」
「……寒い……」
こちらの話を聞いているのか、いないのか。フィリアがむにゃむにゃしながら己の腕をさする。
「寒いなら、帰ろう。風邪ひくかも……」
左腕にするりと絡みつく、ひんやりとしたフィリアの両腕。閉じようとしていた本を、また落とすところだった。フィリアは身体の重心をこちらへ傾けて、ぴったりと密着してくる。
「あったかい……」
こちらの腕に猫のように頬をこすりつけ、またすぅすぅ寝息をたて始めた。
「フィリア……寝ちゃったのか?」
頬から太ももまでこちらにぴったり触れていて、捕らえられた腕はしっかりと拘束されている。フィリア相手にふり払えなどしないため、されるがままだ。
さすがに、家族とか親友の枠を超えている気がする。
心臓が胸をドクドク叩く。嫌じゃなくて、嬉しい。あと……かわいい。すごく恥ずかしいけど、ずっとこのままでいたい。
フィリアはきっと寝ぼけているだけだと分かっていても、いろんな感情がせめぎ合って、結局フィリアの湯たんぽを続ける。自分がテラくらい大きかったら、丸ごと抱きしめて温めてあげられるのに、なんてことまで考えた。
フィリアの髪が風で遊ばれて、こちらの頬をくすぐってくる。同じ設備を使っているのに、女の子はどうしてこんなにいい匂いがするのか、不思議だった。
フィリアは安心しきった顔で眠り続けていて、すごく無防備だ。信頼されているのだと思うが、俺も男であるということをもっと意識してもらいたい。
不満に思いながら寝顔を見つめていると、むにゃ、とフィリアの唇が動いた。
「ヴェン……」
「なっ、なに……って、寝言か」
なんでこんな気持ちの時に、そんなにうっとり呼んでくるんだ!
いろいろたまらなくなって、どうしようもない。
微笑んでいるようなフィリアの寝顔。良い夢でも見ているのだろうか。
こうなったら、俺も一緒に寝ちゃおうかな。
握られた手に指を絡めて、フィリアの頭に頬を乗せ目を瞑る。
その後、不思議なくらい、すとんと深い眠りに落ちて、次に目を開いた時には恥ずかしそうに慌てた様子のフィリアがいた。さっきの仕返しに、寝ぼけたフリして抱きしめた。
31.3.16
\やるやるやる〜/
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