乾いた大地。

光と闇の戦跡。

今は墓場と呼ばれるその土地に、明るい少女の声が響く。






「休憩!……ねぇ、休憩しようよー!」

「うるさい。まだ始めたばかりだ。構えろ」

フィリアは地面に座り込み、キーブレードを放り投げる。

ヴァニタスは修行開始10分で投げ出すフィリアを、面倒そうに叱り付けた。

「だって、ヴァニタスちっとも手加減してくれないんだもん。私もう、あちこち傷だらけだよ!」

「弱いお前が悪い」

フィリアは、ゼアノートがある日どこからか拾ってきた、新米キーブレード使いだ。

「私は忙しいから、お前が鍛えてやれ」

なんてゼアノートに押し付けられてしまい、ヴァニタスが彼女の面倒を見ることになってしまった。

今まで剣術、武術等一切やってこなかった彼女を鍛えるのは容易な事ではなく、事あるごとに、今のようにすぐに泣き言を言う。

女の子相手に手加減をしない!といつも言われるが、これでも彼なりに精一杯手加減をしているつもりだった。

「(これ以上手加減なんて、どうやれって言うんだ……)」

……それに、手加減ばかりしていては成長しない。

しばらくヴァニタスが困っていると、ぶーっと拗ねていたフィリアが、突然ひらめいた様に表情をパッと明るくさせた。

「……あっそうだ!ヴァニタスが何かご褒美くれる、って言うならがんばれそう」

「何……?」

ヴァニタスが怪訝そうにフィリアを見る。

こっちはわざわざ修行に付き合ってやってるというのに。

修行に付き合え、手加減しろ、褒美をくれ……一体どれだけ要求するつもりだ。

「ご褒美があれば、やる気がでるものじゃない?」

ご褒美というと、雑貨や菓子のようなものだろうか。

「……俺はやれるものなんて、何も持っていないぞ」

「うーん……それじゃあ、ヴァニタスが仮面をとって素顔を見せてくれるって言うのは?」

「顔を……?」

首を傾げるヴァニタスに、フィリアはニコニコと微笑みながら頷いた。

「隠してあると、知りたくなるものでしょ?」

「別に隠してなんかいないが……いいだろう。」

「やったあ!」

ヴァニタスが了承すると、フィリアは喜んでキーブレードを拾った。

そしてお互い、キーブレードを構える。










しばらくして、カラン、と地面にキーブレードが落ちた。

落としたのはヴァニタス。

もちろん手加減をしていたのだが、それ以上に、フィリアの動きがいつもと違った。

「お前っ、いつも手を抜いていたなっ!?」

「ぃやったー!私の勝ちー!」

ヴァニタスが怒るも、フィリアはピョンピョンと飛び跳ねて聞こえないフリをしている。

「ヴァニタス!約束通り、仮面取ってよ!」

「……チッ!」

ヴァニタスは悔しさと苛立ちを隠しもせず、舌打ちをしながらガバッと仮面を取った。

荒野の乾いた風が、さぁっとヴァニタスの髪をなびかせる。

「……!」

「……これで満足か?」

ヴァニタスはうんざりとフィリアを見ずに言う。

「………………」

「(なんだ……?)」

急に黙るフィリアに、ヴァニタスは疑問を浮かべる。

普段から一人で騒がしいフィリアならば、

「えー?そんな顔だったんだー」

とか、

「意外と普通の顔だったんだねー」

とか、勝手に感想を言い出すと思っていたのだが……。

「……どうかしたか?」

チラリ、と見れば、フィリアが真っ赤な顔で硬直していた。

「………………」

「おい?フィリア「かっ……」

「……か?」

ヴァニタスが聞き返すも、フィリアはヴァニタスにくるりと背を向けて、顔を両手で押さえていた。










顔は熱を持っていて、鼓動はドクドクと脈打っている。

「(か、かかっ……かっこいいよーーっ!?ちょっと待って……想像以上だよ!!どうしよう!)」

どうしよう、どうしよう、とフィリアが照れていると、ヴァニタスがキーブレードを拾う気配がした。

「おい、何をしている。そろそろ再開するぞ」

フィリアが振り向くと、仮面をつけたヴァニタスが立っていた。

「ああああっ!仮面つけちゃだめー!」

「顔は見せた。褒美は終わりだ」

「もったいないよ!せっかくかっこいいのに!」

「知るか。俺の勝手だ」

ヴァニタスが早々にキーブレードを構える。

先ほどより隙がない。

それにフィリアの気のせいでなければ、怒気も感じる。

「あれ、ヴァニタス……さん?……何か怒ってる?」

「お前が手を抜いていたのがわかったからな。これからはもっと厳しくいくぞ」

「えーっ!?」

「さっさと構えろ。それとも素手で戦うか?」

「ちょっ、ちょっと待って……!」

「遅い」

荒野に爆音と悲鳴が鳴り響いた。








「次のご褒美は、私の前では仮面をとって生活する、でお願いします!」

「……褒美ってそういうものだったか?」





→あとがき
2010.4.13




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