気がついたら、フィリアとふたり、何もない狭い部屋の中で眠っていたらしい。
唯一ある扉の上には、キスをしないと出られない部屋と書かれた紙が飾ってある。誰かのイタズラだろうか。他人にそんなことを強要するなんて、悪質だ。
試しにドアノブを回してみると、一応鍵がかかっているようだ。キーブレードがあれば全く意味がない。
けれど……。
横目でフィリアを見る。フィリアとやっと恋人同士になってからまだ数日で、まだ恋人らしいことーー指示されたキスすら一回もしていない。
正直、したい。かなり。毎日想像している。

「ヴェン。キーブレードで開けるよね?」

ついにフィリアが聞いてきたので、意を決した。

「しよう」
「え?」
「キス」

途端にフィリアが口元を手で隠し、困ったようにうつむいてしまったので、冷や汗が吹き出るくらい慌てた。

「ごめん、そんなにイヤだとは思わなくて……!」

嫌われたくない一心で口走った自分のセリフに多大なダメージを受ける。イヤってどうして。俺たち恋人同士じゃなかったのか。

「ちがうの」

フィリアは小さな声で、ふるふる首を振った。

「ヴェンとするの、いやなんかじゃない。ただ……」
「ただ、なに?」

よかった、嫌われてない!
フィリアににじり寄ると、耳まで真っ赤にして後ずさった。

「キスしたら出られるってことは、誰かが見てるってことでしょ? そんなの恥ずかしい……」
「そっか」

我慢の限界だったので、フィリアを横抱きにした。フィリアは驚きの悲鳴をあげて、目を白黒させている。

「わかったよ。この部屋じゃなければいいんだよな」
「ヴェン」

キーブレードでさっさと扉を開き、建物から抜け出す。どうやらレイディアントガーデンだったらしい。誰もいない空中庭園まで行き、花の中にフィリアを降ろした。

「フィリア、いい……?」
「う……うん……」

目を閉じたフィリアに、こちらも目を瞑り、おそるおそる唇を重ねる。ふに、と気持ちよい感触がした瞬間、やっと特別な気持ちが通じ合った気がして嬉しくて、幸せだと強く思った。
息を止めてしまったので苦しくなり、名残惜しくも一度離す。至近距離で視線が絡み、今腕の中にいるフィリアが愛しくて可愛くて仕方なかった。
熱い吐息を吐きながら、フィリアが首に腕を回してくる。

「……もっと、して」

潤んだ瞳に請われ、もう理性なんて吹き飛んだ。夢中で唇を重ね直し、あのふざけた部屋を作った人物のことなんて、すっかり忘れてしまった。


H29.2.21




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