ハートレスがあまり出てこない穏やかな日。ポカポカ陽気の原っぱで、ソラとふたり魔法の練習をしていた。
 永い眠りから目覚めたばかりのせいか、ソラの魔法の扱いはまだちょっぴりぎこちない。あっという間に魔力を使い果たしちゃって「ちょっと休憩しよ〜っと」なんて草の上に座り込んだ。

「ソラ、もうちょっとがんばって。せっかくのお休みなんだし、今のうちに練習しなくちゃ」
「だって、魔力がなくなっちゃったんだ。フィリアも休憩しようよ」

 言って、ゴロンと横になっちゃう。あぁ、これはよくない傾向だ。ソラは昔からサボり癖があったし、このままお昼寝しちゃって終了コースになっちゃうかも。
 もちろん、普段がんばっている分休んでほしい気持ちもあるけど、まだまだ旅は始まったばっかりなんだし、備えられるところは怠りたくない。

「エーテルがあるでしょ?」
「フィリアも横になってみろよ。気持ちいいぞ。それに、がんばりすぎも良くないって」
「もう、ソラったら!」

 頬を膨らませて叱るも効果なし。どうしたらこの勇者さまのやる気スイッチはONになるだろう? しばらくウンウン考えて、そして思い出す。

「そういえば、マーリンさまが『ソラの服は、魔力が尽きたとき、魔力を集める仕組みがあるようじゃな』って言ってたよね」
「へぇー。そうだっけ?」

 ウトウトな返事。その組んだ両手を枕にしている横へ寝転んで、上半身だけ重なるように抱きついてみた。すると、とたんにビクッと「うわぁっ!?」って叫ぶソラ。顔が真っ赤になっちゃってる。

「なに? いきなり、どうしたんだ?」
「えへへ……こうすれば私に宿ってる魔力を吸収して、ソラがすぐに回復するかもって思って」

 ソラの体の上は思いのほか居心地が良い。予想外の大発見にご機嫌になっていると、ソラが不満そうに、目を半分にして睨んできた。

「そんなことできるわけないだろ。まったく……こういうこと他のヤツにはしちゃダメだからな。たとえばリクとか……」
「どうしてリク?」
「どうしても! とにかくダメだからな!」
「うん……?」

 とりあえず頷いておくと、ソラが私の方にある片手を伸ばし「ん」と促した。厚意に甘えその上に頭を置けばソラがにっこり笑う。

「痺れない?」
「ヘーキ……あーあ。やっぱりこのまま寝ちゃおうかな」
「ダメ。三分後には再開するよ」

 この位置すっごくいい気持ち良いのだけれど、私まで誘惑に負けたらあとでドナルドに怒られてしまう。

「えぇー! 五分」
「じゃあ四分ね」

 双方納得できる決定を下したはずなのに、ソラは口を尖らせて黙りこんだ。こんなにぐずるソラも珍しい。本当に練習がイヤなのかなと不安になった。

「ソラ。どうしたらやる気を出してくれるの?」
「……フィリアがキスしてくれたら、やる気でるかも」
「へ?」

 意外な回答にまじまじ見ると、ソラはプイッと顔をそらした。でも隠しきれてない耳裏が赤い。私のかわいい勇者様。毎日、彼への愛おしさは増すばかりだ。
 ずりずりと這うように移動して頬にちゅっ、と口付けた。するとソラは物足りなさそうな顔でねめつけてくる。そんな顔もかわいらしくて、尖らせられたままの唇にちょんと指を置く。

「こっちへは、ちゃんとファイアが使えるようになったらね」

 すると、一気に立ち上がってソラがファイアの練習をしはじめた。そんな必死にならなくても、本当は私だってしたいのに。嬉しいやら恥ずかしいやら。
 練習している背を見つめていたら、振り向かないままソラが訊ねてきた。

「ブリザドも上手くできたらさ――キスよりもすごいこと、してもいい?」
「えっ?」
「だめ?」

 すごいことって、どんなことだろう。いまいち良く分からなかったが、ソラになら何をされてもいいし。

「いいよ。何でもしてあげる」
「ホント? やった〜っ!」

 そのままソラはブリザドの練習までしはじめた。その姿は本当にうれしそうで、こちらまで同じ気持ちになる。
 その後、新たな魔法を覚える度にソラからエスカレートしてゆくお願いを聞くことになるとは、ちょっと思っていなかったけれど!





H27.11.29







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