いつも通りの十月三十一日。ヴァニタスは荒野でぼけーっとしていた。すると、ふと目の前に異空の回廊が広がって、中からヴェントゥスとフィリアが角やら牙やら羽やら付けた、奇妙な恰好で現れた。
「間抜けな恰好だな。何をしているんだ」
仮面越しで若干暗めのヴァニタスの視界からは、彼らの仮装がいっそうヘンテコに見える。
背に鳥のような羽をくっつけたフィリアがにこーっと笑った。
「ヴァニタス。トリック・オア・トリート!」
「は?」
次に、ヴェントゥスが元気に笑った。
「ハロウィンだよ。お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!」
なんだこいつら。バカなのか。ヴァニタスがそう発言する前に、ヴェントゥスの笑顔がすっと冷めたものに変わる。
「っていうか、おまえが"この瞬間に"お菓子を持ってるはずないよな」
「あ?」
「そんなわけで、さっさといたずらしちゃおうと思います!」
フィリアの宣言。二人はせーの、と顔を見合って
「その仮面を取ってやる!」
「はっ!? ちょっ、待て!」
いっせいにヴァニタスへ襲い掛かった。ヴァニタスは迷わずに容赦なくヴェントゥスを突き飛ばしたが、フィリアに行うのはためらいが生じた。フィリアは肉体的に鍛えていないから、もし本気で殴ったら大怪我をさせてしまうかも、などと考えたせいだ。
ヴァニタスはフィリアと仮面を巡って攻防するハメに陥った。
「おい。やめろ。離れろ、今すぐに」
「やだ。ヴァニタスの顔見てみたいもん。でも、この仮面、どうなってるの?」
ヴァニタスの気も知らず、フィリアはペタペタヴァニタスの仮面に指紋をつけてくる。体が密着してるとか、変な服のせいで胸の谷間あたりまで覗いているとかおかまいなしなので、ヴァニタス更に焦った。
「いいかげんに――ぐっ」
そのとき、ヴァニタスは後ろに回ったヴェントゥスにキーブレードで首元を固定されてしまう。
「きっと、首もとあたりから丸ごとカポーンって外れるんだよ」
「ヴェントゥス、おまえっ!」
あれよあれよという内に、フィリアが仮面の淵に手をかける。ヴァニタスはうまく抵抗できないまま、無様にバタバタ手足を宙で泳がせた。
「わかった、ここからカポーン、だね!」
「やめっ――」
ああ無情なり。荒野に仮面が外れる音が響いた気がした。
ヴァニタスの仮面がはぎ取られた後、荒野は数秒間の沈黙に包まれた。きょとんと観察してくる視線がヴァニタスの心へ棘のように突き刺さる。
先に口を開いたのはヴェントゥスだった。
「なんだ。ハゲてないや」
「極悪人っぽい顔でもないね」
好き勝手にガッカリされ、ヴァニタスの頬がひきつる。いくら闇側だからって、全員がハゲてたまるかと彼は思った。
「ねぇ、フィリア。あとはどんないたずらしようか」
「え〜と、考えてなかったね」
「はぁ? まだやる気なのか?」
「うん、まぁ」
「うん、まぁ」じゃない!
ヴァニタスは慌ててプライズポットを呼び出して、手入した森のカステラや、わた雲のキャンディ、銀河キャラメルやらを二人にくれてやった。
「あっ、お菓子!」
嬉しそうに菓子を受け取った二人は、すぐさまヴァニタスから手を放しお菓子に夢中になった。その姿にヴァニタスは小さく笑う。ずいぶんと好き勝手やりやがって。仕返ししてやる。
「おい――トリック・オア・トリートだったか」
「え? んぅ」
手始めに、キャンディをほおばって無防備でいたフィリアの口にキスをする。一瞬後にヴェントゥスの絶望が膨れ上がったのを感じ口端が吊り上がった。ハハ、ざまあみろだ。そのままヴァニタスは舌を突っ込んだ。
無事、キャンディを回収したのでフィリアへのいたずらを終了してやると、へろへろフィリアが座り込む。耳まで真っ赤になっているのが見え、ヴァニタスは満足げにヴェントゥスへ振り向いた。
「次はおまえだ、ヴェントゥス。χブレードに」
「光よ!」
「ぐわっ!?」
その後、本気で闇を消しにきた光の心とぶつかって、χブレードが生まれたとか生まれなかったとか……。
END
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