旅立ちの地に帰ってきたあとアクアのおいしいごはんを食べてお風呂でじっくりくつろいだあとは、ベッドの上でゴロゴロ台本を読んでいた。今日でディスティニーアイランドの撮影が終わって、次はトラヴァースタウンの撮影に移る。まだ私の戦闘シーンはないけれど、ハートレスにうっかり魔法を撃たないように気をつけなくちゃ。

「フィリア、いる?」
「うん。どうぞ」

 ノック音とヴェンの声。反射的に答えたあとに「ん?」と首をかしげた。ヴェンが部屋の中に入ってくる。彼の表情はふつうだったのだけれども、伝わってくる感情は穏やかじゃない。少し――怒っているみたい?
 ヴェンはこちらへ一直線に近づいてくると、ちょこん、とベッドの端に座った。
 しばしの沈黙。どうしたんだろう。

「ヴェン、なにかイヤなことでもあったの?」

 ヴェンが力なく頷いた。ソラほどとはいかなくても、明るく前向きな彼が落ち込むほどのことってなんだろう。マスターに叱られたとか?
 考えている間にヴェンの手が伸びてくる。乾かしたばかりの髪を指にくるりと絡ませた。

「確か、ここだよな」
「なんの話?」

 質問に答えないヴェンは、真剣な顔つきのまま髪を遊ばせたあと頭を撫でてきたり、こちらの手を掴み繋いできたり――確認作業のように行ってくる。

「あとは?」
「わからないよ、ヴェン」

 すると、ヴェンはにっこり後光が射しているようなイケメンスマイルで、

「俺以外の男が、俺のフィリアに触ったところ」

 と、殺意に満ちた声で言った。
 あ、これ、早期に手を打たないとヤバイ案件だと、光の速さで理解する。

「ヴェンったら……これはお芝居だから仕方ないでしょ?」
「分かってても、イヤな気持ちはおんなじだよ」

 ぷうってヴェンの頬が膨れるが、絶対にかわいいって分かっててやってると思う。男の子なのに。
 確かに、私もヴェンが他の女の子を抱きしめたりしていたらイヤだけれど……あ、想像したらムカムカしてきた。ヴェンの側に寄ってそっと抱きつく。

「ヴェン、大好きだよ。やきもち焼いてもらって嬉しい」
「もうずっと焼きっぱなしだと思うけど」

 子犬みたいに喜んだヴェンが抱きしめ返してくれる。私が日に日に逞しくなる腕や胸の筋肉にドキドキしてること、彼は気づいているのだろうか。
 ヴェンがご機嫌になったようでホッとする反面、彼にもDDDまでの台本は渡っているはずで、そこまでにも私はあの人とこーなったり、この人とそーなったりするのだけれど、こんな調子で大丈夫だろうかと心配になった。

「私たちが再会するまで、ずいぶんと先は長いものね」
「ん。ソラはいいんだ。けど、他が……リクとか、ロクサスとか、ゼムナスとか、リクとかがさ……」
「リク、二回言ってるよ」

 ブツクサ呟くヴェンを茶化しながら彼の肩に頬をこすりつけた。ヴェンの匂いがする。あったかい――

「気になるなら、早く起きて。じゃないと、心変わりしちゃうんだから」
「それ、俺のせいじゃないよ……心変わりなんかしちゃイヤだ……」

 泣きそうな声で言われて、慌てて「冗談だよ」と取り繕う。

「そんな悲しい顔しないで。……早く、お芝居のなかでも会いたいね」
「ああ――

 どうしても不安なんだろうか、ヴェンの腕の力が増した。









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H27.2.26




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