「話がまとまったようでなによりだ」
「気をつけてね。これ、みんなから」
「何かあったら、いつでも戻ってきてよね!」

 レオン、エアリス、ユフィから餞別と別れの言葉をもらい、世界の扉の前に立つ。ヴェンは常にフィリアを見つめていて、フィリアは落ち着かないみたいだ。これからこの二人の空気が和らいでいくことを願うばかりだ。
 ドナルドと魔法の話をしているフィリアを難しい顔で眺めてるヴェンと、ちょっと話してみることにした。

「そんなに落ち込むなよ。すぐに仲良くなれるって」

 チラリと視線がこちらへ動き、すぐに戻る。

「そうだな。本当はこうしてまた会えて、一緒にいられるだけでも十分に――

 そこで言葉を区切って、ヴェンは体ごとこちらを向いた。悲しみなどない、とても綺麗な微笑み付きで。

「ありがとう。ソラのおかげだ」
「は?」

 なぜ礼を言われたのか。予想もしてなかった言葉にしばし呆けてしまった。こちらの混乱にかまわず、ヴェンはニカッと笑う。

「ソラは覚えていないかもしれないけど、俺は、キミに助けられてばかりなんだ」
「俺が? ヴェンを?」
「そう。だから今度は俺の番だ。ソラとフィリアの友だちを早く見つけよう」

 先ほどのハートレスを倒した手際といい、かなりの腕前であるヴェンを救った覚えなどもちろんないが――まぁ、いっか。そう結論付けている間に、ヴェンの瞳が若干鋭くなる。

「そして、俺の友だちも捜さなきゃ」
「王様と、あと、テラとアクアだっけ?」

 そう、と頷くヴェン。なんだかこいつも大変なんだな。助けてやらなくちゃと思った。

「俺も手伝うよ。仲間だしな!」
「ありがとう。……フィリアにはすっかり怖がられちゃったな。今から少しでも仲良くなってくる」
「おう」

 迷いが吹っ切れたのか、ヴェンは怖気もせずにフィリアの方へ行ってしまった。気づいたフィリアがこちらへ助けを求めるような視線をよこすが、まぁがんばれの意味をこめた笑顔を返してやる。
 ドナルドもいるのに、ヴェンにはフィリアしか見えてないみたいようだ。腕を組み足をパタパタさせるドナルドにかまわず、身構えるフィリアに「さっきはゴメン」ときりだした。

「フィリア。俺、今度こそキミを守るから」
「今度、こそ……?」

 フィリアは不安な顔のままヴェンを見上げ首をかしげる。

「必ず――たとえ何があっても」

 まるで誓いをたてる騎士のようだった。困り顔のフィリアが、ためらいながら口を開く。何を言うのかと思っていたら……

「あのね、ヴェントゥスは私の友達だったの?」

 ヴェンがビシッと固まった。あちゃあ〜と頭を抱える。しかも、あれはどう贔屓目に見ても「パオプの実いっしょに食べよう」レベルだろう。

「……ああ。俺たちは親友だったんだ。でも、もう違う」

 なんとか笑顔を保てたヴェンはフィリアの片手を優しく掴むと、自分の胸元へ押し付けた。

「好きだ」
――え?」

 ワンテンポ遅れて理解したフィリアの顔が耳まで真っ赤になった。オロオロとヴェンを見たり、こちらを見たりする。

「今までもこれからも、俺はキミが好きなんだ。これだけは、もう絶対に忘れないで」
「……は……い」

 懇願する囁きに、フィリアは真っ赤な顔でこくこく頷く。そしてようやく手を放し離れようとするのを「ヴェン」と呼んで引き止めた。

「私もキミを守れるようにがんばるから! あ、やっぱりまだ、ちょっと自信ないけれど――

 もごもごと言うフィリアに、ヴェンが穏やかな笑顔を返す。その爽やかさの裏に「めちゃくちゃ抱きしめたい」という気持ちがありありと浮かんでいたが、フィリアにはバレてないようだった。
 そして甘い甘い雰囲気に、なぜかイライラとした気持ちがこみ上げてくる。

「〜〜ちょっと、いつまでイチャついているんだ!」

 我慢の限界がきたのか「僕だってデイジーに会いたい!」とドナルドが叫んだ。










 四人はグミシップ。ヴェンだけキーブレードをライドにして世界の海を渡っていた。鎧を着るとかカッコイイ! 俺もやってみたい! と言ったが、鎧は一着しかないらしい。キーブレードも変形できないし。すごすごとグミシップに乗り込むとき、ヴェンが言った。

「今度教えてあげるよ。鎧も貸してあげる。グミシップの運転と交換!」

 しかし、グミシップの操縦権はドナルドが握っている。まずはここから攻略していかなくちゃならない。道のりはちょっと長そうだ。
 にっこり笑顔を確認し発進。襲い来る敵がグミシップにぶつかる前にヴェンのキーブレードが流れ星のように舞い、見事に撃破してゆく。その姿がとってもかっこよくて、グミシップの窓からヴェンの姿を追いかけているだけで笑顔になれた。

「すごいヴェン、カッコイイ!」
「前は、私もいっしょに乗っていたんだって。ちょっと信じられないけど……」

 控えめに笑うフィリア。でも、ヴェンがそんな嘘を言うとは思えないのできっと本当なのだろう。そうすると。フィリアっていったい何者なんだろうと疑問になった。

「フィリア。俺たちと会う前のこと、なにか思い出した?」
「ううん、まだ。……私ね、昔のことを思い出すのが怖かったの。でも、今は早く思い出したいって思ってる」

 言葉の最中もフィリアは窓からヴェンを探し見つめていた。ほんのりと赤い顔で。面白くない。

「ねぇソラ。ヴェンとフィリアって、もしかしたらいい感じなのかもねぇ」

 グーフィーがアヒョッと笑いながら囁いてくる。
 ヴェンはいい奴だし、二人が仲良くなることになんの問題もない。なのに。

――そうかもな」

 なのに、どうしてこんなに気持ちがムカムカするんだろう?

「ソラ! エネルギーが足りなくなるよ、ちゃんと笑って!」
「わっ、ごめん!」

 ドナルドに叱られて、慌てて笑顔を取り繕った。











25.01.18

→あとがき




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