壮大な音楽の中、ヴェントゥス、テラ、アクア、フィリアの順番が決まり、ハートの模様のサイコロを振った。

「やった、6だ」
「5か。まぁまぁだな」
「私は4ね」
「うぅ……2」

 このゲームは、ただ相手より先に進めば勝てるなんて単純なものではない。だが、先行できればプレッシャーは少ないし優越感を味わえる。
 何回目の順番で、1番ビリのフィリアがサイコロを振った。出た目は3。止まる先は、さっそくの

「スペシャルパネルだ」

 コマンドボードでは、一番注意しなければならないパネル――スペシャルパネル。これによってゲームの勝敗が左右されるといっても過言ではない。
 全員が息を飲み見守る中、スペシャルパネルを踏んだフィリアが光に包まれた。現れた文字は「???」途端にヴェントゥスはがっかりする。

「なーんだ、ピートか」
「いや、ヴェン。あれを良く見てみろ」

 テラの言葉で、ヴェントゥスはもう1度フィリアを見る。フィリアと一緒にコマンドボードのマスにいるのは邪魔なほどに巨体なピートではなくて、茶髪の髪を跳ねさせた、5歳くらいの男の子だった。

「俺、ソラ! よろしく、ちっちゃいお姉ちゃん」
「う、うん。よろしくね」

 驚愕しているフィリアに、ソラは子犬のように無邪気に笑った。

「よーし! それじゃあさっそく、俺がお姉ちゃんを手伝ってあげる!」
「えっ? 君が手伝ってくれるの?」
「うん、任せといて!」

 ソラは太陽のような笑みを浮かべながら、頭の後ろで手を組んだ。

「どうやら、あの子はキャプテン・ジャスティスのような役割みたいだな」
「かわいいわね」
「うん」

 アクアの感想に同意しながらヴェントゥスもサイコロを振る。2が出れば、ヴェントゥスもスペシャルパネルを踏める。

「5、か……」

 サイコロ運の良さを残念に思いながら、ヴェントゥスは前へ5マス進む。3マス後ろにいたテラがサイコロを投げると6が出た。彼はスペシャルパネルだ。

「今度こそ、スペシャルパネルの正体が……!」
「ヴェンったら、大げさよ」
「そんなに注目されると、緊張するな」

 アクアがヴェントゥスに苦笑し、テラも笑う。ソラがフィリアに内緒話をするように話しかけた。

「俺、何が出るのか知ってるよ。でも言っちゃダメなんだ」
「ないしょなの?」
「そう。驚かせたいんだって」

 テラがパネルに辿り着く。現れた表示は「???」

「なんだ、ピートか」
「違うわ、ヴェン。あれを見て」

 アクアに言われてヴェントゥスがもう1度テラを見ると、銀髪でソラよりほんの少し大きな男の子が立っていた。猫みたいな緑瞳でテラを見ている。

「はじめまして、お兄さん。俺はリク。これからこのゲームの間、俺がお兄さんを助けてあげる」
「ああ。頼むぞ、リク」
「リクー!」

 ソラがリクに大きく手を振ると、リクは片手を上げて返した。そして、隣のテラを見上げた。

「お兄さん、俺はソラより役にたつから、期待してて」
「なんだよ、もう! 俺とちっちゃいお姉ちゃんだって負けないからね!」
「賑やかになってきたわね」

 くすくす笑いながらアクアがサイコロを転がす。出た数は5。スペシャルコマンドへぴったりだ。

「こ、今度こそ……!」
「どんな効果かわかるのかな」

 でも――もしかすると、もしかして。
 期待を抱きつつ、ヴェントゥスたちはアクアを見守った。浮かんでくる文字は「???」

「こんにちは、お姉ちゃん」
「やっぱり!」

 現れたのは、5歳くらいで赤髪の、小鳥のように可愛らしい女の子。アクアに寄ると、持っていた小さな花束をアクアに差し出した。アクアが花束を受け取った途端、花びらがボードポイントに変化する。

「私、カイリ。これからこのゲームの間、お姉ちゃんを手助けするね」
「よろしくね、カイリ」

 アクアがカイリの頭を撫でた。ソラがそれを見て、うらやましそうな顔をする。

「いいなぁ、カイリ」
「じゃあ、ソラにもしてげるね」

 フィリアがソラの髪をよしよし撫でると、ソラが満面の笑みで喜んだ。その様子に、リクが少しむっつりする。

「2人とも子どもなんだから」
「リクはああいうことは嫌いなのか?」
「嫌いじゃないけど……」

 そう言って顔を逸らしたリクの頭を、ふっと笑ったテラが撫でた。リクは驚いたようにテラを見ると、照れたようにはにかんだ。

「…………」

 ヴェントゥスは、なんだか複雑な気持ちだった。4人で遊んでいるはずなのに、ひとりぼっちのような、疎外された気分である。

「フィリアの番だよ!」
「あ、うんっ」

 ヴェントゥスの急かしに頷き、フィリアがサイコロを投げる。止まった面は2。

「また2かぁ……」
「俺に任せて!」

 肩を落とすフィリアにそう言うと、ソラはポンっとサイコロの姿に変身し、「たー!」とコマンドボードの中を転がった。停止したとき、上にあるのは6の面。

「ちっちゃいお姉ちゃん、6だよ!」
「い、いいのかな……それに、だいじょうぶ?」

 6の対面は1。サイコロのデザインは、ちょうどソラの顔が1の役割を果たしている。つまり、ソラの顔面が地面とキスしてる格好になってしまい、鼻を赤くしたソラはちょっぴり涙目で頷いた。

「へ、へーきだよ、これくらい!」
「痛いくせに。無理するなよな」
「リク!」

 ソラの痛みはともかくとして、なんともズルっぽいが、コマンドボードの妖精(?)たちのやることに、プレイヤーは逆らえない。もしそれができたなら、キャプテン・ダークの身が危険だからだ。

「俺もスペシャルパネルを狙おう……!」

 ヴェントゥスは真剣な表情でサイコロを転がした。15マス先にあるスペシャルパネルを、これほど恋しいと思ったことはない。
 ヴェントゥスのターンが終わり、次はテラ。転がって出た目は4だった。

「コマンドをセットしたし、俺のターンはこれで――」
「ちょっと待って」

 ターンの終了宣言をしようとしたテラを遮り、リクが隣のパネルに手をついた。途端にそのパネルがテラのものになってしまう。

「パネルキャプチャー。普通のより安く買い取れたから」
「ありがとう。リクはすごいな」
「これいくらい、大したことないよ」

 謙遜しながらも誇らしげにリクが答える。フィリアの隣でソラが何やら騒いでいるが、聞こえないフリをしている。

「私の番ね」

 アクアがサイコロを振る。それについて周りながら、カイリは花を渡し続ける。

「お姉ちゃん、はい、お花」
「ありがとう、カイリ。綺麗なお花がポイントになってしまうのは、少しもったいない気がするけれど」
「そのためのお花だからいいの」

 そんな調子でまた数ターン進み、ついにヴェントゥスはスペシャルパネルの3マス前にやってきた。

「3でろ、3でろ、3でろ、3でろ……」

 ブツブツ言いながらヴェントゥスはサイコロを投げた。この際、1でも2でもいい。4以上は出てくれるな。ヴェントゥスが必死に願うと、見事、求めていた3が出た。

「やったあああ!」

 喜びながらヴェントゥスはスペシャルパネルを踏む。期待を裏切らず、現れた文字は「???」。辺りが光に包まれる。




原作沿い目次 / トップページ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -