【結】


 
「フィリアは、よくエリクサー買うクポね」
「ハイポーションだけじゃ足りなくて」
「また、たくさん仕入れておくクポ」
「よろしくね。はい、お代」

 機関服を着たモーグリに代金を支払いながら苦笑をつくる。任務でクタクタになったあと、こってりゼムナスに絞られて、毎日がボロボロのヘトヘトだった。必要以上の化粧品を買わなくなった代わりに、エリクサーやハイポーションを大量に買い込んでいるので、相変わらずお財布の中はすっからかんだ。
 でも、得られたものは大きかった。ゼムナスの特別訓練により、ハートレス討伐任務はもちろん、調査任務さえも俊敏に済ませられるようになり、颯爽と報告書にまとめ、サイクスを追いかけまわす時間ができた。そして、いろんな彼を知った。
 たとえば、バーサーカーを相手に、肩慣らししている姿とか。
 たとえば、ぼーっとキングダムハーツを見上げている姿とか。
 たとえば、休憩がてら、ソファでうつらうつらしている姿とか。

「……しあわせ……」

 サイクスの様々な姿を思い出しながらうっとりしていると、ついつい、ため息と共に呟いてしまう。知らない宝物を見つけ出したような気持ちだった。映像としてそれらの姿を残せないのが残念だ。できたなら、毎日眺めてお守りにして持ち歩くのに。



 夜。この時間になったら、コーヒーのフィルターをセットしながら湯を沸かす。粉を出して、分量を守って、マグカップを用意して――
 ちょうどよい頃合に、キッチンに闇の回廊が開いてサイクスが現れる。だいたいこの時間帯にコーヒーを飲みたくなるらしいことは覚えたので、待ち伏せするようになっていた。私が待っているのを知っててもサイクスは習慣を変えないのだから、同意のうえだと一方的に思っている。
 淹れ終わったコーヒーを、さっそくサイクスへ手渡しした。

「サイクス、大好き! お疲れ様〜」

 最高の笑顔を作ってみせたはずなのに、サイクスの眉がむむっと歪む。

「よく、飽きないものだ」
「飽きるどころか、生きがいだけど」
「そんなもの、キングダムハーツを完成させることにしろ」
「う〜ん、サイクスを好きなこと以上の生きがいにするのは絶対無理」

 ため息をつきながらもサイクスはコーヒーを受け取ってくれて、ひとくち飲む。――よかった、美味しいみたい。

「お仕事、まだ終わらないの?」
「ああ」
「私に手伝えることはない?」
「子どもは早く寝ろ」

 まーた子ども扱いだ。化粧で大人っぽく装っても同じだったし、今度、思い切って押し倒してみようかな。

「ねぇ、サイクス。私、結構あなたのこと知ってきたつもりなんだけど、いつになったら私のこと好きになってくれるの?」
「寝言は、寝てから言うものだが」
「茶化さないでったら」

 余ったカップ半分ほどのコーヒーを、自分用のカップに淹れる。それを見ると、サイクスはカップを置いて、白い容器を持って近づいてくる。

「心がないうちは、無駄だ」
「じゃあ、キングダムハーツが完成したら、愛してるって言ってくれるんだ!」

 はしゃいだ勢いに任せてサイクスに抱きつこうとしたが、器用にも、容器の中身をこぼさないよう気をつけながら片掌で顔面を抑えられ、ガードされる。

「むぐぐぐー」
「調子に乗るな。そんなことを言った覚えはない」

 なかなか本気の力だったので顔がぎりぎり痛んだけれど、クレイモアを呼び出してマヂギレされた時に比べれば、ずいぶんサイクスの態度は柔らかくなった。押して、押して、押しまくった私の戦果だ。
 私は緩んだ頬を引き締めることもせず、サイクスの掌に頬を擦りつけた。やった、サイクスの掌を独占だ!

「えへへ、早く聞きたいなー……いひゃい!」

 頬ずりしてたらつねられた。「まったく」と呆れ声とともに解放される。

「見栄っ張りの子どもが、心を手に入れてもそのままだったら、仕方がないから考えてやる」

 サイクスの持っていた容器から、ミルクが私のカップに入れられる。黒と白は混じり合って、ほどよい茶色に変化した。

「それ、約束? 取り消しは受け付けないよ?」
「わかったから、早くそれを飲んで寝ろ」
「絶対、絶対守ってね」

 念を押しながら、ほどよい温度のカフェオレに口を付ける。不器用に優しいサイクスによく似たそれは、甘く、苦く、そしてとても美味しかった。





2013.6.27




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