機関の城は普段から静かだけれど、決められた生活サイクルの中で夜と認識されている時間帯はもっと静かだった。
 彼は、キッチンの冷蔵庫の前にいた。

「やべーなぁ。これでごまかせっかな」

 冷凍庫の扉を覗きながら、独り呟いている。

「まさか、こんなにすぐに気づくとはなー。あいつの食い意地を舐めてたぜ……」
「だ・れ・が、食い意地が張ってるって?」
「げっ――フィリア!」

 彼はギョッと冷凍庫の扉を閉めた。普段ひょうひょうとしてる姿からはほど違い、焦りに満ちた顔をしていた。

「アクセル! やっぱりキミが私のアイスを食べた犯人だったのね!」
「いや、待て、これには訳が……」

 言い訳なんて後で聞く、今はこっちの怒りを優先させろ! とばかりに私は叫ぶ。

「いつか四人で暮らそうって約束したよね! そのために私が貯金してるのも、買いすぎないようにアイスをまとめ買いしてたことも知ってるクセに!」

 手裏剣を振り上げると、チャクラムで防御された。私の武器の扱いは彼に教わったものだから当たるわけがないので、遠慮せずにドンドン投げる。

「ちょ、だから待て、悪かったって! やめ、おい! 話を聞けよ!」
「問答無用! しばらく的になりなさい!」

 気が済むまで、さんざん手裏剣を投げた後に聞いた、彼の話を要約すると。
 私がアイスを買いだめて冷凍庫に入れていると知っていた彼は、気を利かせていつもの場所へ持って来てくれたのだが、その日の私の任務が長引いて、待っている間にアイスが溶けてしまったのだという、とーっても普通な理由だった。

「なんですぐに教えてくれなかったのよ」
「おまえが大げさに騒いだからだ。いつもあの場所に寄ってるのは秘密だってのに」
「アイスを溶かしたときに、言ってくれれば!」
「任務で疲れてるときに、ガッカリさせたくなかったんだよ」

 面倒なのか、照れ隠しなのか、アクセルが乱暴に言い放った。

「あー、そういやそのアイスの棒、あたりだったんだ」
「あたり棒……?」
「おう、ほらよ」

 ポケットから取り出され、差し出される一本の棒。いま、自分のポケットにも一本入っている。

「それはアクセルにあげる」
「なんだよ、いらねーのか?」
「いいの。今、持ってるし」
「あ?」

 不審そうな顔をされるも、詳細を教えるわけにはいかない。
 「そういえば」とアクセルが言った。

「おまえ、『やっぱり俺が犯人だったのか』って言ったよな。はじめから分かってたんじゃねーのか?」
「ううん……私には分からなかった」

 話すほどにボロが出るので、そこで会話を切って自室へ向かう。
 あたり棒を渡せる日はいつになるだろう。楽しみなのか、廊下を歩きながら、いつの間にか鼻歌を歌っていた。





2013.5.6




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