晴れたとある日の朝。
 ヴェントゥスと山頂のベンチに座っておしゃべりしていたら、ふとヴェントゥスが考え込む仕草で言った。

「そういえばさ、ヴァニタスがソラのこと兄弟って呼んでいたんだ」

 確かに、ソラとの初対面から一方的にそんな風に呼んでいたなぁと思いだす。誰にでもツンケンしている彼にしては珍しい親しみっぷり。

「ヴェンは兄弟って呼ばれたの?」
「兄弟とは思っているみたいだけど、俺のことは普通に名前で呼んでくる」

 ソラばっかり……と、なんだか複雑な表情のヴェントゥス。もしかして、ヴェントゥスもヴァニタスに兄弟って呼んでほしかったのだろうか? ヴァニタスともっと仲良くしたいのかな。仲良くなくても、羨ましいくらい特別な繋がりがあるように思えるけど……。
 物心つく頃にはマスターの元で暮らしていた私たちには本当の家族がわからない。でも、小さいころからずっと一緒だったから、もはや兄弟みたいなものだろう。

「ヴァニタスがヴェンの兄弟なら、ヴェンは私の兄弟みたいなものだし、ヴァニタスは私の弟も同然だね」
「えっ」
「えっ?」

 ヴェントゥスの表情が更に複雑なものになったので、私との兄弟呼びは嫌なのかとショックを受ける。

「誰がおまえと兄弟になんかなるか」
「あ、ヴァニタスいたの。って、ひどい!」

 話を聞いていたらしい。いつも神出鬼没のヴァニタスは、今日も物陰からひょっこり現れるなりケッと吐き捨てるように言ってきた。ヴェントゥスも苦笑する。

「うん。俺も兄弟はちょっと。家族にはなりたいけど」
「そんな、ヴェンまで!」

 ヴァニタスはとにかく、ヴェントゥスに断られるのはダメージが大きかった。今まで培ってきた私たちの友情はなんだったの! 涙目でヴェントゥスにしがみつく。

「やだやだ。私だって兄弟になりたい! ヴェンはお兄ちゃんでいいから〜。ヴァニタスは弟ね」

 すると、ヴァニタスがあからさまに怒ってきた。

「はぁ? どうしてヴェントゥスが兄で俺が弟なんだよ!」
「だって、私より遅くに生まれたんでしょ?」
「ハッ、自分より弱いやつの弟なんざごめんだね」
「強さで兄弟の順番が決まるんじゃないもの。姉さんとかお姉ちゃんって呼んでいいよ!」
「呼ばないって言っているだろ!」

 ヴァニタスと言い合っていたら、ふと黙っていたヴェントゥスが手を掴んできた。ん? と見ると、彼はキレイな青目をきらきらさせて、真剣にこちらを見つめている。

「俺は本当の家族になりたいよ。でも、兄弟以外の関係で」
「兄弟じゃない家族って…………あ」

 改めて言われて、やっと察する。思わず頬が熱くなった。

「ヴェン。それって……わっ」

 もしかして。意味を確認しようとしたとき、うしろからヴァニタスの腕が首に巻きついて、ぐいーっと彼の方へひっぱられた。見た目通り強い力の人なので簡単に抱き寄せられてしまう。ちょっと苦しい!
 目の前のヴェントゥスがヴァニタスを睨んでいたし、背後のヴァニタスからは人を挑発するような笑顔の気配がする。

「おいおい。兄弟のものを奪うつもりか?」
「都合のいい時だけ“兄弟”を使うなよ。それにおまえのものじゃない!」

 それからふたりはいつものように仲良く口喧嘩をはじめてしまったが、もう羨ましいとは思わない。
 兄弟とは違う、今よりもっと近い関係。彼となっていけたらいいなと思った。




END
R5.4.2


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