気がつけば、黒が印象的な街の中にいた。立派な建物の上には聖人や鳥の彫刻が飾られている。
 こんなに立派な街なのに、この太い道を誰ひとり歩いていない。霧がかっているから早朝なのか?

「ここは……」

 そこで、音もなくこちらへ近づいてきた人物に「あなたは、ブレインですね?」と訊ねられた。真っ黒な服を着て、帽子を深くかぶっている。

「ああ……」
「これを」

 肯定すると、自分の帽子を渡される。なぜこいつがこれを持っている? 疑問に感じながらも帽子をかぶった。
 誰だと問えばシグルドと名乗った男は、本部に連れて行くと一方的に話を進め、とにかくついて来いという。
 街の一番中央と思われる場所へさしかかった時、立派な噴水が現れた。中央に掲げられている人物の彫刻にはっと息をのむ。

「これは……」
「彼がこの街、スカラ・アド・カエルムを造った初代キーブレードマスター。マスター・エフェメラです」

 トレードマークの赤いマフラーを巻いて、キーブレードを掲げている姿に笑みがこぼれる。
 無事生き延びて、こんな銅像を立てられるほどに偉業をなしとげた親友の姿は己のことのように誇らしく、嬉しい。

「近くにフィリア様の銅像もあります。後で御覧になっては?」
「フィリアの!?」
「はい。彼女はキーブレードを掲げていませんが……」
「え、なぜ?」
「記録によると、残念ながら武芸では秀でた方ではありませんでしたから。代わりに建築技術や美術、演劇などに多彩な才能を発揮されて、マスター・エフェメラと共にこの街を発展させました」
「……そうか……」

 エフェメラは、約束どおりフィリアを守ってくれたのか。
 自分にとってはつい先ほどのことのよう。彼女の手のぬくもり、別れ際の口づけ。髪の香り。潤んだ瞳をありありと思い出せる。

「……幸せになってくれたなら、いい……」
「記録では、酒に溺れるたび『ブレイン、絶対に許さないんだから!』と泣いていたと」
「えっ!?」
「冗談です」

 シグルドをじとっとねめつけると、申し訳ありません。と棒読みで謝罪された。あまり謝意を感じない……。

「……あとで、フィリアの銅像の場所も教えてくれ」
「はい」

 今はまず本部へ行かねば。もう一度エフェメラの銅像を見上げてから、シグルドの後を追った。





R5.3.16




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