パーティーメンバーから恋人へとフィリアとの関係を変えた時期。アヴァ様からダンデライオンに入らないかと勧誘された。頷けば予知書を授かり、使命を託された。やること、考えることが膨大に増えて、フィリアと会う時間は激減した。
 心配じゃないわけではないが、フィリアだって成長した。いつまでも自分があれこれ見てやらなくてもキーブレード使いとして十分任務をこなせているだろう。そう言い訳して、彼女を守る時間がなかったのは確か。
 ある日、喫茶店で資料を読んでいたらフィリアがふてくされた顔で現れた。不穏なウワサどおり、難易度に似合わない強敵が紛れた任務が増えたようだ。死にかけたところを親切な男子に救われたとノロケ話をしはじめた。久々に会って早々他の男の話か? しかもわざとらしい口調。アイスティーの飲み方に相当な怒りを感じる。付き合いを申し込んだくせに、傍にいてやれないこちらが悪い。ここは黙って聞いておこう。まだ恋人らしいことをひとつもしてやれていないが、別れ話をされたら困るし。
 街でキナ臭い空気が漂いだしてから、ユニオンからのふざけた量のノルマを真面目に守ろうとしている人間の方が少ないというのに。
 結局、フィリアの要望を叶えてやることができないため、適当にあしらう形となってしまった。


 いよいよ戦争が起ころうとしている。マジメなフィリアは向かうだろう。そしてあっという間に死んでしまう。
 なんとか都合をつけることができ、フィリアの部屋の前に来た。ノックしてもいない。まだ任務から帰ってきていないのか。入れ違いになったら困る。扉の前で待つと、数時間後に帰ってきた。いつもこちらを見つけるとパッと笑顔になる彼女の表情は硬かったが、気にしちゃいられない。

「フィリア。明日の招集には応えるな」

 フィリアは怪訝な顔をした。

「……なんで、そんなことを言うの?」
「明日行われるのは殺し合いだ。誰も生き残れない」

 フィリアがわずかに唇を引き締めるのが見えた。けれど、首を横に振る。

「だからって、ユニオンリーダーの厳命に逆らえるわけないじゃない」
「行けば命はないんだぞ」
「別にいいよ、どうでも」
「何を言って――」

 フィリアらしくない発言に耳を疑う。フィリアはぷいと顔をそらした。

「ブレインはアヴァ様を守っていれば?」

 なぜここでアヴァ様がでてくる?

「アヴァ様は戦いに参加するけど、俺たちには参加するなと言ったんだ」
「ああ、そう。じゃあ、そうすれば!」

 寂しい思いをさせていることは薄々気がついていたが、想像以上の拒絶に困惑が勝った。

「フィリア、何を怒っているんだ? 俺はただきみを助けたくて」
「私のこと、今まで散々ほっといたくせに、今更なによ!」

 バタン! と勢いよく扉を閉じられて、情けなくもぽかんと立ちすくした。しかし、いくら拒否されようがフィリアを死なせるわけにはいかない。こうなったら強引にでも――と思ったところで、チリシィが呼んでくる。次の場所へ行かなければ間に合わない。時間ぎれだった。


 戦争の混乱の最中も、チリシィのおかげでフィリアを見つかることができた。衝撃派でふっとばされて岩の隙間で気絶しているところを急ぎ回収した。運が強い子だ。

「戦争中でも、だれかを助けようとしてるなんて……きみらしいな」
 
 雨上がりの白い光の中、能天気な寝顔を見下ろす。頬をつつくと、薄っすら目を開いた。

「フィリア」

 ぼーっと見上げてくるフィリア。大丈夫かな?

「ブレイン。ごめんね……」
「うん」

 答えると、目を丸くされる。

「夢がしゃべった」
「夢じゃないからしゃべるよ」

 夢じゃないのと驚くフィリア。久しぶりに、穏やかに笑いあった。


 新しいユニオンリーダーの一人として働く日々はすぐに始まった。仲間たちは、いいやつらばかりだ。けれど予知書にはない名前。異様な気配。考えなければならないことはたくさんあった。
 フィリアのこともある。ずいぶんほっといてしまったから、もっと一緒にいたいとか、ちゃんと恋人扱いしてほしいと散々いわれた。まさか、アヴァ様との仲を疑われていたことには驚いたが、フィリアには二度と戦争前夜のような顔はさせたくない。彼女のこと、今度こそ大切にしよう。






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