ブレインとも、またこうやってパーティーを組めたら。そう思いながら探したら、喫茶店でくつろいでいる姿を見つけた。久しぶりの再会なのに全然嬉しくなさそうだし、私の近況に興味なさそう。こっちを見ず本ばかり読んでいるので悔しくなってしまって、ワザと他の男の子の話をしたり、音をたてるようにアイスティーを飲んだ。彼は私のひどい態度に眉をひそめることすらせず、早く行かないかなって態度ばかり。「キミは俺と付き合っているんだろ、他の男の話なんかするな」って怒ってほしいのに。
作戦を変更し「任務がきついの、守って」とおねだりしたら「また今度ね」だって。かろうじて彼女だと思っているような発言は聞けたものの、こんな調子で本当に付き合っているといえるのだろうか。
ピリついた空気が嫌になる。キーブレード使いたち同士でもモメることが増えた。私も露骨に嫌がらせをうけたり、任務やルクスを横取りされることが増えた。困っている人を助けることが喜びのキーブレード使いの姿はどこに。みな、賊のようにルクスを奪い合っていた。
私はイージーの任務に戻っていた。報酬の多い任務は魔物以上にキーブレード使いが危険だから。少ない任務を数多くこなすことにした。そのため、もっとブレインと会う時間はなくなった。ブレインもブレインで忙しいみたいだし。
そんなある日のこと、街のはずれでブレインがアヴァ様と一緒にいる姿を見かけた。私くらいの年齢で、か弱そうな見た目なのに非常に優秀で、トップクラスのキーブレード使いかつユニオンリーダーでいらっしゃるアヴァ様。普段は仮面で隠されているけれど、素顔はとってもかわいいとウワサを聞いたことがある。私が逆立ちしたところで絶対に勝てやしない相手。
ブレイン、アヴァ様に頼りにされているのかな。それなら、私なんかに興味ないのも合点がいく。
明日、全員荒野に集合。
突然、ユニオンリーダーから招集命令が下った。珍しく、絶対命令だった。こんな弱い私でも必要とされているのが意外だった。
最近の物騒な雰囲気から、いいことが起きるとは思えない。なんだか怖くなって、早く家に帰って寝ようと思った。
駆け足で家に戻ると、なんと玄関前にブレインがいた。彼から私に会いに来てくれることなんて初めて。すごくうれしかった。けれどブレインはまともな挨拶もなく突然「明日の招集には応えるな」と言ってきた。
「……なんで、そんなことを言うの?」
「明日行われるのは殺し合いだ。誰も生き残れない」
ああ、そうか。私なら、即、誰かに殺されて終わるだろう。
「だからって、ユニオンリーダーの厳命に逆らえるわけないじゃない」
「行けば命はないんだぞ」
「別にどうでもいいよ」
「何を言って――」
「ブレインはアヴァ様を守っていれば?」
「アヴァ様は戦いに参加するけど、俺たちには参加するなと言ったんだ」
ふぅん。ブレイン。アヴァ様に従っているんだ。
「ああ、そう。じゃあ、そうすれば!」
その時、ブレインの困った顔を初めて見た。
「フィリア、何を怒っているんだ? 俺はただきみを助けたくて」
「私のこと、今まで散々ほっといたくせに、今更なによ!」
ブレインを押しのけて、乱暴に部屋に入ると扉を閉めた。キーブレードがあるから入ってこられるだろうけど、ブレインは入ってこなかった。
好きな人が自分を助けようとしてくれて嬉しいのに、嫉妬から意地を張ってしまった。扉の向こうの気配が去ってから後悔がどっと押し寄せてきたけど、これ以上嫌われるのが怖くて、彼を追いかけることができなかった。
ブレインの言った通り、大規模な殺し合いが起こった。殺意と怒り、恨み、悲しみに満ちた戦いだった。
倒れている人を診ていたら、近くにイラ様とアセッド様が現れた。ふたりとも、なんだかとても怒っていて、怒鳴り合って戦いを始めた。高レベルのキーブレード使いたちの戦いとはこれほど激しいものなのか。すさまじい衝撃派にまきこまれて、周囲のすべてのものと共に私の意識も吹き飛んだ。
あーあ。やっぱりあの時素直になっておけばよかった。ブレインに謝りたかった。もっと恋人らしいこと――キスとかしたかったな。最後の瞬間にそう思った。
真っ白な光を感じて目を覚ます。雨上がりの空が見えた。
目を覚ますってことは、眠っていた?
「フィリア」
見上げるとブレインがいた。夢か妄想かな。だってケンカ別れしたんだもの。
「ブレイン。ごめんね……」
「うん」
「夢がしゃべった」
「夢じゃないからしゃべるよ」
驚くとブレインがくすっと笑って、私も笑った。
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