バレンタインだ!
ロクサスに本命チョコを作ろう!
出入り業者のモーグリさんに頼んで、ゼムナスのツケでバレンタインチョコ作成キットを手に入れたまではスムーズだった。
「だめだ」
「むむむ……」
問題は、簡易キッチンのガーディアンが立ちはだかってきたことだ。彼は鬼のような顔をして、絶対通さないぞという意思表示と共に腕を組んで仁王立ちしている。
「サイクス、通して〜!」
「おまえがケガをする可能性のある行動は認められない」
「そんなこと言っていたら、お料理なんてできないじゃない」
「板チョコのまま渡せばいいだろう」
「そんなの、作ったことにならないよぉ……」
チョコを刻む包丁で怪我したら?
湯煎の火や湯で火傷したらどうするんだ?
なんて、まったくこっちの意見を聞いてくれない。
5歳児だって、もっとお料理しているよ!
「溶かして固めるだけなら、開封しないほうが衛生的にもマシだろう」
「そんなのヤダーッ! こもってる心が違うもん!」
「心、だと……」
サイクスの眉間がヒクッと反応する。効果あり? 押せ押せ!
「サイクス。お願い〜!」
「……………………仕方がない……」
サイクスが深ぁいため息を吐きながら退いてくれる、かと思いきや、キッチンの中についてきた。触れる前に包丁と鍋を取り上げられる。
「危険な作業は俺がやる。おまえは俺が許可した作業だけ、心をこめてすればいい」
「えぇーーっ!!」
というわけで。
任務から帰ってきたロクサスとアクセルを出迎える。
「おかえりなさい!」
「うん、ただいま。フィリア」
駆け寄ると、にこーっと笑ってくれるロクサス。かっこいい。
多少もじもじするも、意を決してロクサスへ箱を渡した。
「ロクサス! はい、これ。あげる!」
「これは、なに?」
「本命チョコ」
「ほんめい?」
意味が分からなかったらしく、ロクサスは側にいたアクセルを見上げた。アクセルはニヤついた笑顔で「一番特別に好きって意味だ、色男」と教える。ロクサスは「フィリアの特別……!」と呟きながら、瞳をキラキラさせてチョコの包みを開封した。
「うわ、すげッ」
言ったのはアクセル。売り物かと見まごうほどの、温度管理、テンパリングさえ完璧にこなされたキラキラのチョコたちが宝石のように並んでいた。
「よかったな、ロクサス」
頬を赤らめて頷き、さっそくチョコを一粒食べるロクサス。満面の笑みで喜んでくれて、とても嬉しい。
「すごく美味しいよ、フィリア。ありがとう」
「うん!」
「おいロクサス、俺にも一個くれよ」
「アクセルの分もちゃんとあるよ。ねぇ、シオンはまだ戻ってこないの?」
そんなこんなで、願い通り大好きな人たちにチョコを渡すことができたので、満足はしたのだ、一応は。
その夜。
「はい、ゼムナス。チョコ作ったの。あげる」
部屋に顔を見せにやってきたゼムナスにチョコを渡すと、いつもより長く頭を撫でられた。
本当は予定になかったけれど、サイクスが「絶対に渡しておけ」というので渡した。とても喜んでくれたようだ。「おまえが作ったことにしろ。俺が作ったことは誰にも言うな。絶対に」というので95%サイクスの手作りであることは黙っている。
手伝ってくれたことは助かったし、ロクサスを筆頭にみんなも喜んでくれた。
でもでも、うーーん、やっぱり違うのだ。自分で作ったチョコを食べさせて、喜ばせてあげたいのだ。
「ようし、来年こそは、絶対自分で作るぞ!」
そうしてサイクスの分も作って、あの心配性の過保護男に「見直した」と言わせてやるのだ。
目を丸くして「うまいうまい」とぱくぱくチョコを頬張るロクサスやサイクスたちを想像すると面白い。くふふと笑って、眠るのだった。
R5.2.13
\やるやるやる〜/
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