任務の帰り道。トワイライトタウンのところどころに飾られたかぼちゃについて訊かれたので、今日はハロウィンだということをロクサスに教えた結果。

「ふぅん。その言葉を言えば、今日はお菓子がもらえる日なのか……」

 興味心旺盛なロクサスにかぼちゃを見つめながらポツリ言われて放っておくのは、無いはずの良心が痛む。しかし仮装の用意なんてない。機関のみんなを巻き込むにはサイクスという壁がある。
 どうしようか。考えていると、ロクサスは「トリックオアトリートだけがやりたい」という。

「フィリア。俺にトリックオアトリートって訊いてみて」
「いまから? それに、私がそっち側でいいの?」

 訊けば、満足そうな肯定が返ってくる。

「じゃあ、トリックオアトリート」

 ロクサスはウキウキとまだ食べていないシーソルトアイスを取り出した。

「はい!」

 これを持っていたから自信満々だったのね。

「でもそれは、ロクサスの分じゃないの?」
「いいんだ」

 しかし、受け取る寸前でロクサスはアイスをひょいと持ち上げてしまった。

「フィリア。俺も。トリックオアトリート!」
「えっ」

 もしかして、お互いのアイスを交換したかったのかなと思い至る。しかし、私はまだアイスを買ってきていなかった。

「ごめん。私もアイス買ってくるから」
「待って」

 ロクサスがアイスを持っていない方の手で掴み止めてくる。

「お菓子がないならイタズラしていいんだろ?」

 なっ……罠、だと……。
 この間までピヨピヨのピヨちゃんみたいだった彼が、こんな策士になってしまっただなんて。
 私は失われたピヨちゃんを想いため息を吐き、両手をあげて降参ポーズをとった。

「わかった。イタズラしていいから。溶けちゃう前にそのアイスちょうだい」
「もちろん。俺からフィリアにあげるよ」

 やったーと喜ぶロクサスに毒気が抜かれる。
 ニコニコと、ロクサスはアイスを差し出してきた。持ち手の木の棒ではなく、水色のアイスの先端の方を。思わずジト目でロクサスを見てしまった。

「ほら、溶けちゃうよ」

 確かに、アイスから雫が流れ始めていた。
 ええい。もったいない!
 意を決し、ロクサスに持ってもらったままのアイスに噛り付く。幼子みたいに食べさせてもらっている羞恥と、ロクサスからのジーッとした視線に耐えて食べ続けるアイスの味は、いつもと同じはずなのによくわらかなかった。

「ふぅ。ごちそうさま……」

 ヤケクソに食べきったため、口のまわりがちょっとベタベタ。ハロウィンっぽくないなぁなんてブツブツ思っていると、「じゃあイタズラ」と顎を掴んできたロクサスにぺろっと口元を舐められ

「俺もごちそうさま」

 と、言われた。




R4.10.31




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