トイボックスにて
ハートレスに乗っ取られたバズが、ウッディに向かって何度もレーザーを撃っている。ドナルドたちはバズを止めたりウッディを守るのに必死で、ソラは若い時代のゼアノートと戦っていた。
みんながソラに助けを叫ぶ。応えたソラが駆け寄ろうとしてくれた時、ゼアノートに捕まってしまった。
「邪魔をするな」
腹に衝撃を受けて、ソラが吹っ飛ぶ。その先にあった液晶画面に吸い込まれてゆく。
「ソラ!」
慌ててバズを押さえる手を離し、彼が吸い込まれた先へ走る。掌サイズのそれにはパッケージに商品名が。
「た、たまごっち……?」
小さな液晶画面にはデフォルメされたソラが映っている。
「ソラ! 助けなくちゃ……!」
付属の三つのボタンを訳も分からぬままポチポチすると、ソラの目の前にパオプの実やアイスが現れて、ソラがそれらを完食する映像になる。
「えっ、カイリ以外が出したパオプは食べちゃ……わ、アイスの棒まで食べちゃだめ」
他にも変なミニゲームが始まったりして、どうやったらソラを助けられるのか分からない。
「そのままの方が、都合がいいんじゃないか」
必死にボタンをピコピコしていたら、耳裏に唇が触れそうな距離で低い声が響いたので肩が跳ねた。ゼアノートがすぐ側でソラの画面を覗き込んでいる。
「ソラがいつまでもおまえだけのものだぞ」
カッとなって彼へ振り向き、睨みつけた。ばかにするなと言いたかった。けれどその前にたまごっちがぴーぴー鳴って、慌ててソラを見るとハートレスが画面に現れていて、ボタンを押したら追い払えた。ソラ自身の力で追い払えないのなら危険だ。
相変わらずバズはビームを打っているので仲間たちはこちらを助ける余裕はなさそうだ。
「どうしたら、ソラはここから出て来られるの?」
不満とか屈辱とか考えないようにして、悪魔のように側で佇むゼアノートに訊ねると彼は満足げに笑った。
「教えてやってもいいが。代わりに、おまえは俺になにをしてくれるんだ?」
「なにって──」
黒革の手袋をはめた指に、頬を撫でられる。この男から気まぐれにされる突然の誘惑めいた仕草。はわっと気づく時はいつも手遅れの場合が多い。
あっという間に顎をもちあげられ、腰を抱き寄せられ、流れるような仕草で唇が触れそうになった瞬間。
意図せず手からすべり落ちたたまごっちが固い床にぶつかった。ハッと正気を取り戻すのと同時に、ソラがゲホゲホ咳き込みながら元に戻ってくる。
ぴゃっとゼアノートから身を離し、ソラへ駆け寄る。
「ソラ! 大丈夫?」
「う、なんだったんだ、いったい……」
たまごっちを落としたせいで痛めたのか、ソラは頭を撫でていた。周囲を見回すと、ゼアノートとバズの姿が忽然と消えている。まだ近くにいるはずだ──仲間たちでバズを助けなければと気合をいれる。
新たに得た闇への情報場所へ向かう途中、気になってソラに聞いてみた。
「ソラ。たまごっちの中ってどうだった?」
「う〜ん……なんだかすごく居心地がよくてさ。アイスの棒までおいしかった。急にすごい衝撃で元に戻ったけど」
「できればもうちょっと居たかったな〜」なんてノンキなソラへ「お腹を壊さないなら、よかった」と曖昧に笑って返す。ゼアノートにキスされそうになっていたところ、ソラに見られていませんように。
──ソラがいつまでもおまえだけのものだぞ。
ソラがこの掌の中で自分の与えたもので生きるなんて。危うく惑わされた思考はそっと胸の奥にしまっておいた。
R4.10.23
\やるやるやる〜/
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