旅立ちの地の山頂でフィリアはヴェントゥスとヴァニタスを両隣にして座っていた。
いつものように星空を見上げていると、ヴェントゥスがチリシィと同じサイズの白ネコのぬいぐるみをフィリアに渡してくる。
「バレンタインってたいせつな人にプレゼントを贈る日だって聞いたから、ロクサスにバイトを紹介してもらって、買ったんだ」
「私に? ありがとう! チリシィみたいでかわいい」
ヴェントゥスがチラッとヴァニタスを見て「おまえもぬいぐるみが欲しかったか?」と訊ねると、ヴァニタスは「いるか」とジト目でヴェントゥスに答える。そして彼もネコのぬいぐるみと同じサイズの黒ウサギのぬいぐるみをフィリアに渡してきた。
「わあ、ヴァニタスもくれるの?」
「俺には人に何を渡せばいいのか分からない。だから、ヴェントゥスと似たものにした」
どちらのぬいぐるみもふわふわで愛らしく造られており、素人目にも高級品なのが分かる。
「どっちもかわいい。ありがとう。大切にするね」
ヴェントゥスはウサギを見て「あの店でネコとどっちにしようか迷ってたやつだ」と目を丸くした。
「おまえ、マニーはどうしたんだ?」
結構高かったのに……とヴェントゥスが心配すると、ヴァニタスはあっけらかんとした表情で答える。
「マニーなんて、アンヴァースが勝手に集めてくる」
「えっ、ずるい!」
「使えるものを使ってなにが悪い」
にらみ合うふたりに不穏な気配を察知し、フィリアは慌てて割り込んだ。
「あのね! 私も、ふたりに渡したくてカイリに習ってきたの」
そしてフィリアは約束のお守りをふたつ取り出し、それぞれに渡す。
「ごめんね、私は手作りだから、あんまりお金かかってないの……」
貝がら集めには苦心したけれど、高級品を頂いた後に手作り品を渡すのはなんだか申し訳ない気持ちになる。フィリアがちょっと俯きかけたとき、ヴェントゥスが「ありがとう、嬉しいよ!」と満面の笑みを見せた。喜んでもらえてよかっとホッとするフィリアは、次にヴァニタスの反応が気になってくる。
チラッと横を見ると、ヴァニタスは薄っすら頬を染めて、ジッとお守りを見つめていた。
「ヴァニタスも気に入ったんだって。よかったな。フィリア」
「おい、勝手に言うな」
ヴァニタスがジロッとヴェントゥスを睨む。最近、ヴァニタスはヴェントゥスに気持ちを代弁されると拗ねるようになった。
「ヴァニタスにも喜んでもらえたら、嬉しい」
「……ああ」
答えたヴァニタスがフィリア顔を寄せてくる。求められるままキスすると、後ろでヴェントゥスが「あーっ!」と叫んだ。
「フィリア、俺も、俺も!」
「うん、あっ──」
フィリアは振り向こうとして、ヴァニタスに押さえられてまたキスされる。うしろでヴェントゥスが騒いでいる間にもキスはどんどん深くなっていって、フィリアの思考がボンヤリしてきた頃、強引にヴェントゥス側に引っ張られた。
「ヴァニタスばっかりずるい!」
「子どもか」
ぷりぷり頬を膨らませるヴェントゥスへ、ヴァニタスが煽るように鼻で笑う声がする。
「仲良くして。ね」
ヴェントゥスの髪をよしよし撫でると、その手を掴まれて口づけられた。
「フィリア、俺にも、ヴァニタスと同じくらい」
ヴェントゥスとヴァニタスを平等に愛するのがこの交際のルールである。
フィリアは求められるままヴェントゥスとキスすると、今度はヴァニタスが後ろから髪や耳にキスしてきた。それにヴェントゥスがムムッと気づくのも分かる。
あーあー。山頂は寒いというのに今夜はなかなか城に戻れなくなりそうだと、ぬいぐるみを抱きしめながらフィリアは嬉しいやら困るやら複雑な気持ちで思うのであった。
R4.2.14
\やるやるやる〜/
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