太陽を透かす、薄暗いテントでつくられた二人きりの密室。伸ばされてきた細い腕を飾る、金の腕輪がシャラシャラと鳴っていた。
「フィリア、ダメだ」
言葉だけの拒否に彼女を止める力はない。握れば指があまるくらいに細い、こんな華奢な腕を振り解けないのは、甘い香水を纏った彼女の色気にすっかり呑まれているからだ。
「テラ、おねがい」
いつもより鮮やかな赤に染められた唇が、艶めいた吐息まじりで呼んでくる。この世界特有の、露出が高い妖精のような衣装で美しく着飾ったフィリアが、蕩けた顔でいま自分を求めてきている。
応えてはダメだと頭の隅から声がした。自分たちはこんなことをする仲ではない。自分がどんなに想っていても、彼女には別の――。
「テラ……私じゃ、いや?」
潤んだ瞳に覗きこまれて、呼吸を忘れる。
「そういう問題じゃない。俺は、おまえを傷つけたくはないんだ」
いやなものか。どれだけ耐えてきたか。
抱きしめ返したくなるのを、拳を強く握りしめて堪える。彼女はいま混乱しているだけだ。好奇心からこの世界の衣装を着たせいで、事件に巻きこまれただけなのだ。決して自分のために着飾ったわけではない。
「ここで横になって安静にしていろ。時間が経てば――」
なんとかあやして、眠らせなければ。そっと視線を外し彼女を見ないようにしていると、ぐすっと泣き声が聞こえてギクッとつい見てしまった。彼女が流す涙は自分のせいなのかと思考が真っ白になる。
「テラのばか。いつもそう。守るなんて言って、本当は私なんて眼中にないんでしょ」
「何を言っている?」
フィリアが紅潮した顔を自分の首元に埋めてきた。荒い息を繰り返す熱く柔い身体を肌で感じる。
「好きよ、テラ」
言葉に突き刺されたかと思うほど、その瞬間ドクッと心臓が鳴った。しかし、すぐに「まさか」とも思った。今の状態のせいで心にもないことを口走っている可能性がある。
フィリアはせっかくの化粧を涙でくしゃくしゃにしながら、上目遣いでこちらを睨みつけてきた。
「愛してくれないのなら、せめて、ひどく傷つけてよ。全部、私のせいにしていいから」
こちらの答えを待たず、口づけをされる。先ほどまで固くあった理性はあっけなく崩壊し、普段は見たこともないフィリアの背の肌に腕をまわして、性急に舌を絡ませた。
\やるやるやる〜/
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